孤独の狐 6話 ページ21
紫 side
｢っえ、？｣
突然の轟音に、慌てて戻ったその場所は
驚いた、という、簡単な言葉で片付けるには余りにも悲惨な状態で。
柄にもなく言葉を失った。
と同時に、
奥から現れた人影に全身の血の気が引く気がした。
いつもは、俺を見つけると
クシャッっと、それはそれは嬉しそうに、とろけるように笑うそいつは
今となっては、獣のような獰猛さを放っている。
剥き出しの殺意が宿ったその瞳は、いっそ美しくさえあった。
｢っ、ひかる、？｣
違う、ひかるじゃ、無い。
｢お前、｣
ひかるはこんな
｢誰だ、？｣
冷たい眼をしない。
｢声を出すのは久方ぶりかのう？半妖の狐、というのも疲れるものよ。｣
ソイツは、俺の事など無視して喋り出した。
｢こやつに邪魔されずこんな事が出来るのも、
全て御主がこやつを救ったお陰じゃ。
・・御主なら、分かるであろう？
のう、菫月。｣
俺を見やり、ほくそ笑む顔に、背筋が凍り付く。
素性の知れぬ相手の言うことを信じるのはどうかと思うが、
もし、アイツの言葉が本当なら＿＿＿。
祠には、安全の為にある程度の呪文をかけてある。
ここにかけてある呪文は二つ。
守りの呪文と
日が昇り、俺の力が弱くなる時の為の
妖力を強化する呪文＿＿＿。
アイツは妖狐だ。
今までは器となるヒカルが耐えきれなかったから、妖力が暴走するだけだった。
でも今は俺の呪文で、ヒカルは強くなってるはず。
だが、強くなったとしても、所詮は人間。
あやかしには、到底敵わない。
つまり、ヒカルは
｢っ、お前に、取り込まれた・・・？｣
呆然とする俺を前に、妖狐は唸るように話す。
｢こやつのお陰で実に退屈だった。
・・・ああ、でも、生を殺める、というのは、中々愉快であったな。｣
そう言って含み笑いをする妖狐。
｢、は？｣
思わず声が漏れた。
殺す事が、"愉快"だって？
ふざけんな。
ヒカルは、あんなに、傷ついてたのに。
｢のう、菫月。我の仲間にならぬか？｣
俺が、はい、と言うと思い込んでいるアイツは、どれだけ御目出度いヤツなのか。
｢なるわけ無いだろう。｣
ヒカルを苦しめたヤツとなんか。
｢そうか。｣
俺の答えを聞いた妖狐は、残念そうに微笑んだ。
｢ならば｣
その途端、妖狐がフッと消えた。
｢殺すしかないな。｣
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作者名：桃百合 | 作成日時：2023年12月12日 9時
