人魚公主 (ページ10)

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第一発見者2 ページ10

「ああ、僕は医者でも看護師でもなくて、ただの学生です。

覚えていないですか、海辺で倒れていたのを僕が見つけたんです」

A公主は首を横に振った。

これは本当だ。薬を飲んでその場で意識をなくしてからの記憶は一切ない。

そういえば、意識をなくす直前に巫女が言っていたんじゃなかったっけ、人間界では記憶のないふりをしろと。

「そういえば、もう少しで警察が事情を聞きにくるらしいです。

僕も話をするのと、あとはここの教授に用があってここに居るんです」

怪しい者ではないというアピールを済ませた彼は、少し出てくると言って病室を後にした。

しっかり寝顔を見られてしまったことは、なかったことにしてしまいたいらしかった。

どのみちA公主はそれについて聞くための声だって持っていないのだが。

カン・ヒョングという学生との会話(一方的に話されただけだが)において、言いたいことが言えない不自由を知って少なからずもどかしくはあったが、

今の彼女にとっては人間になれた喜びの方が遥かに勝っている。

部屋に1人残された彼女は、声こそ出ないがそれでもキャッキャと笑った。

自らに被さっていた布団を剥がして放り投げると、

そこには見慣れない自分の下半身が病院着にくるまっている。

先ほどはカン・ヒョングがもたれかかっていたせいで動かなかった脚を勢いよく振り上げると、

ベッドの横に両足をつき、そのままぴょこんと立ち上がった。

脚の裏から感じる床の冷たさ、膝にかかる全身の重さ、そして、高くなった目線。

全てが新鮮で、興奮のあまりその場でバタバタと足踏みをする。

信じられない。夢みたい。

殺風景ながら彼女にとっては新しい景色を見回しながら、

1歩、そしてまた1歩と脚を踏み出したはいいが、

いつの間にか落っこちていたタオルに滑って派手に転んだ。

その拍子に点滴台が倒れて酷い音を立てる。

外にいた看護師が駆け込んできて、その後に血相を変えたカン・ヒョングが病室に入って彼女のもとに駆け寄っても、

A公主はただ、幸せで天にも昇りそうっていう表情だ。