決断 ページ6
「これがその薬で合っているの？」
何度も何度も頷く巫女。
2人の間の座卓に、白い錠剤2粒。
「勝手に想像するに、虹色でキラキラ光るとか、そういうものだと思っていたんだけど――」
これじゃあまるでバ◯ァリンみたいだと、A公主は思った。
「昔はそうだったらしい。貝殻とか、魚のウロコとか、ラメラメした感じの生薬を使っていたから」
「そういうもん？」
「まあ、そういうもんです」
裏声を使うことを面倒臭がった巫女は、それから地声で語り始めた。
「最近は化学的に合成しているから、基本白い錠剤になっているようで……」
「それで、効き目は昔と同様にあるの？」
「同様だなんて！ まさか！
最近は科学技術が進んで、副作用が少なくなったんですよ。
p(パラ)-位の水素をヒドロキシ基に置換することに成功したんだ」
感動を以て熱弁する巫女は、もはや聖職者ではなくて研究者である。
「その、何とか基をつけたことで、どうなったの？」
「童話にあった記述を覚えている？
一歩歩くごとにナイフの上を歩くような痛みがするだろう、って。
その副作用が何と、完全になくなったんですよ！
改良版の薬を飲めば、尾びれは人間の脚として全く問題のないものになる」
「テーバク(すげえ)」
感嘆の余り、身を乗り出して拍手までしたA公主。
一緒になって巫女も笑っていたが、ふと彼は静かになり、そして言った。
「だけど悲しいかな、声は失うことになる」
これは童話の頃から改善していないんだ、と残念そうに言った巫女。
2人の間に重い沈黙が流れた。
今度は隙間風でさえも、息を潜めてしまったようだった。
片手を喉元に当て、暫く俯いていたA公主だったが、
遂にその手を下ろし、顔を上げた。
「それでもいいわ。
私、その薬を飲んで人間になる！」
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作者名：スヒョン | 作成日時：2016年11月19日 21時
