姐さんはくのいち～四巻～ (ページ19)

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何かひとつページ19

皇輝side

事務所の一角に、姐さんが仕事をするときに使っている防音室がある。

この頃はコロナ対策で換気しているから、姐さんが仕事している時でもドアが開いてるし、音もたまに聞こえる。

YouTubeの撮影の後、姐さんに勉強を教えてもらおうと思って事務所の中を探してたら、その防音室の方からピアノの音が聴こえてきた。

聞いたことがあるようなメロディー

吸い寄せられるようにその音の方に向かうと、そこはやっぱり姐さんがいつも使っている防音室で。

＿＿何かひとつ確かなものがきっとどこかにあるだろう

女性特有の、きれいな高音は姐さんの歌声だった。

間奏に差し掛かったところで、姐さんは後ろを振り向きもしていないのに

「いいよ、入りな。」

と言った。

ゆっくりと部屋の中に入って、近くの椅子に腰かける。

＿＿言葉にすれば消えそうでいつも言えないままだった

綺麗な声だけど、震えてる。

歌い終わった姐さんは、俺の方に向き直った。

「この歌、好きだけど、歌ってたら切なくなる。」

皇輝「誰の歌なの？」

「Answer。平野の初主演ドラマの劇中歌のうちの1曲。」

皇輝「いい歌だね。」

「これラブソングなんだって。私には、応援ソングにもきこえるけど。」

姐さんは、窓の外を見ながら言った。

「置いて行かないよって、言ってるように思える。」

置いて行かないよ、か。

「大丈夫だよ。誰も置いて行かないから。」

皇輝「え？」

「卒業間近で色々考えすぎてるでしょ。疲れてる顔してる。」

皇輝「ほんと？」

「みんなは気付いてないと思うよ。私だけ。」

だから、私には何でも吐き出しなって、やさしいかおで言われたらもう、涙は止まらなかった。

姐さんは俺が泣き止むまでずっといてくれて、泣き止んだ俺にいちごみるくの小さいアメをくれた。

「甘いよ。私が泣きたいときに健永がいつもくれたんだよね。」

皇輝「おいしい。」

「よかった。スッキリした顔になったね。」

たまには思い切り泣きなさいって。

頭の中で流れたAnswer

確かに応援ソングにもきこえた。