逃げる ページ17
『……ぇ、ぁ』
言葉を失い、引き攣った声しか漏らせない私を、太宰さんは優しい目で見ていた。
だから私は、逃げた。
『そ、れは、アレですよね、友愛、ですよね』
左右非対称の笑みで云った私を、太宰さんは咎めるどころか、己の体躯で私を抱き締めた。
「君が思う方でいいよ」
思う方、これはもう完全に告白ではないのか。男性経験が無い私としては如何すればいいのか全然判らない。
ただ熟れたトマトみたいになっていく顔を必死に冷まそうと努力するだけだ。
「……さて、こんなことをやっている場合じゃないね」
『コンナコト』
「ん？ 何だい期待してたのかい？」
含んだ笑みで云う太宰さんにぶんぶんと首を振って返す。いやホント何も考えてないです。
でも何か、雰囲気が何ていうか滅茶苦茶いつもと違った気がしたのだ。
「敦君達の──
『あっ……！』
原作のシーンではあるが、少し覚えている。全体的なストーリーは薄っすらだが、一部分のシーン、それがたまにはっきりしていて助かる。
跳ねるように立ち上がった私を、太宰さんは微笑ましそうに見た。
『早く行きましょう、時間無くないですか!?』
「んーあと十分ぐらい」
『あああホントに時間無い』
慌てて部屋から飛び出した。それは敦君達の救出に急ごうというだけであって、決して太宰さんと同じ空間に居るのが恥ずかしかった訳ではない。
「……あーあ」
意気地なし、と心の中に投げかける。
最初にアレから逃げたのは、慥かに凪だったかもしれない。けれど太宰も逃げたのだ。土壇場で怖くなった。こんな弱みに付け込むなんてダメじゃないのか、なんて臆病な心が云った。
「ダメダメじゃないか、私」
そう肩を震わせ、一人呟いていたことを知っているのは、彼と名探偵。
まあ他に居るとしたら、神様ぐらいなものだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 616人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
シュークリーム - 題名に釣られたポオ君推し系の人ですどうも()あの〜……、貴方は神ですか……？最高です！文才がないうちからしたらとても尊敬します！今後も頑張ってください！ (2023年5月4日 18時) (
レス) id: 8e2a6ae821 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - ダリアさん» コメントありがとう御座います、嬉しいですね。時間は今は嫌という程あるので、お言葉に甘えさせて頂きます。 (2020年4月22日 9時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 私は白夜の世界推し続けるさん» そうなんですか、大丈夫でしたか……？書き溜めている分はいつも通り投稿させて頂きますが、嬉しいお言葉ありがとう御座います！ (2020年4月22日 9時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
ダリア - ストーカーですか…知らない人に訳わからないこと言われると「え？」ってなりますよね…こんな時期ですし、ゆっくり休んでください！小説の方も頑張ってください！ (2020年4月22日 9時) (レス) id: 6c92e05c62 (このIDを非表示/違反報告)
私は白夜の世界推し続ける - 大丈夫ですか!?ストーカー紛いのこと自分もされたことあるんですが、気持ち悪いですよね...今はゆっくり休んでくださいね！ (2020年4月21日 20時) (レス) id: 80e5573ebd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白夜の世界
| 作成日時：2019年10月5日 16時
