一話 ページ1
「A。…開けて」
俺は扉の前に立ち、閉ざされたドアを目の前に呼びかけた。
「…嫌。ご飯は食べたから、大丈夫だから」
Aは言ったが、きっと嘘だ。
Aが最後に「大丈夫だから」と付けるときは、相手を強引に信じ込ませたいとき。
あと、嘘をついたり強がっているとき。
幼いころから隣で見てたからわかるんだ。
一回、外から見たとき、Aの部屋はカーテンが閉まっていた。
そっとドアを開けてみても、部屋は真っ暗。明かりといえばパソコンから放たれる一筋の青白い光だけ。
そしてまたそっと扉を閉める。
「だから、」
ドア越しに聞こえるAの声は小さく、こもっていて聞こえづらい。
＿＿＿そして、昔とは比べ物にならないくらいに暗くて、重い。
「彼方ももう来ないで」
「それは無理かな」
「どうして」
「心配だから？」
それと、まふまふに頼まれてるから。
そう言おうとしたがやめておいた。
「まふまふ」というワードはきっとAの前では禁句だろうと思ったから。
「…っ、どうして？！来るなって言ってるよね？これ以上私に関わるようなら…」
Aが急に怒声を上げたあと、ドアが勢いよく開いた。
黒いパーカーのフードを深く被り、目元にクマをつくって目つきの悪い少女＿＿＿Aが姿を見せた。
俺とはちょうど十歳差の幼馴染。
その右手にはカッターナイフ。
「こ、これ以上近づいたら…関わったら、刺すから！」
そういう人は大体、刺したりはしない。
「…まふまふの事も、そうやって追い出したんだろ」
まふまふの言っていたことが脳裏に蘇る。
『僕、カッター向けられちゃって。怖くて帰っちゃったんです。通報もしようと思ってたんですけど、アノが歪んでしまったのは僕のせいだって考えたら、どうにもできなくて』
「……」
ここには歌い手仲間たちが次々と訪れた。
浦島坂田船も、天月だって。
続く
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作者名：みや。 | 作成日時：2017年11月20日 20時
