EWの短編集

ポール ページ9

空の旅をするパイロットは聞こえが良いが、その人は軍人としても活躍している男である。あっさりして時々抜けている、その男ポールの知人であるAにとってのポールの印象であった。

「軍人として仕事進んでる？」
「全然だ」
「そっか、軍人の仕事がないことが一番か」
「そうだ」

タバコを吸い始める彼の側には、その知人がいる。彼らは友人でもあるが、片方が非常に多忙である為になかなか会えないので、こうして2人のんびり話せる機会は珍しい。

「タバコ嫌い、何度も言ってる」
「悪い、すまん」
「全然やめてない……ま、良いけど」

ヘビースモーカーのポールにそれはムリな話だと知っているからか、諦めがやけに早いA。何故か灰皿をどこからともなく取り出して、ポールに寄せた。

「気が利くな」
「早く消して欲しいし」
「オレの趣味を否定、か……ありがたいから不問だ」
「気遣いありがとう」

それ以上はタバコを吸わなくなったポールに、少しご満悦なA。灰皿をしまった彼女は改めてポールと向かい合った。

「そっちが呼んだんだから、用件言ってよ」
「せっかちな女は嫌われるぜ、なんてな」
「……ちゃかす為だけなら帰る」
「あー待て待て、行くな。言うから、帰るな」

踵を返した少し不機嫌なAは、慌てたポールに呼び止められる。呆れた表情ながらも、素直に彼の前に戻る様子は長い付き合いからも来てるだろう。

「話を戻すが、今日来てもらったのには大事なことがある」

突然真面目な顔と声色で、少しだけ彼女に近寄った。未だに表情を崩さない彼女は、恐らく何度もこの光景を目にしたのだろう。

「どーせ、限定品買えって言うんでしょ？こちらへの返礼がまだ無いけども？」
「話が早い。じゃあ、どこか行くか。今からジェット機乗って向かうぞ」
「私利私欲！それ以外！あなたの上司が嫌味たらたら言いそう！」

彼はパイロットの資格は持っているが、よく乗っているジェット機は借り物だ。それを友人は重々理解していたようで必死に止めていた。それに渋々了承して、その案はすぐに消えた。

「飯食いに行くか」
「別に良いよ、だらだらしているのは悪く無いし」
「返礼は別の日か」

今度会う時までに買って欲しい物を約束し合った彼等は別れた。しかしポールは腑に落ちない表情で、頭を片手でかきながら、もう片方の手でタバコをふかした。

「また言いそびれちまった……」

彼は自身の胸に秘める大きく募った恋慕を、未だ伝えることはできずにいた。

マット→←タマラ(ELLSWORLD)

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