EWの短編集

マット ページ48

人が少ない時間で、暗い道の中に浮かぶ明るい水槽がたくさん並ぶ水族館に来た。色とりどりだったり、地味な色だったり、多種多様な魚を見ていた。

「キレイだね、みんな食べ合ったりとかしないのかなー？」

魚の共食いを匂わせるセリフに身震いする。
一緒に行こうと思っていた友人が、物忘れが激しいのでわたしに2枚のチケットを渡した。しかし当の本人が急用で無理になり、チケットの期限もあって1人で行こうと家を出た。そのすぐに出会ったマットが、わたしが手にしていたチケットを見て何故か行きたいと言ったので渋々連れて行くことになった。

「わあ、ヘンな顔してるサカナだ。前につりに行ったんだけど、トムのせいでできなくなっちゃったんだ」

離した瞬間、彼の行動がハチャメチャすぎて、そのせいで迷子センターに駆け込むことになるかもしれない。絶対に離れないように腕をがっしり掴んだ。満更ではなさそうな彼に対して、もう一つは騒ぐなと釘を刺す。

「わかった、Aとこの水族館のためだよね」

熱帯魚はじっと大人しく見てたけど、深海魚の変な顔の魚を見て、見せつけるポーズをした。小声ではしゃいでいたけど、やっていることが大げさな手振り身振りで妙に目線を集める。
人が少ない時間でも、恥ずかしすぎる。この水族館に行きたいと言ったのは、今日来るはずだった友人だ。その友人じゃなくて別の友人のマットになった。しかし、彼の言動を見聞きして、連れて行かなければ良かった。ある意味、罰ゲーム気分だった。

「楽しかったけど、キミは楽しくなさそうだったよ……」

白状するように、わたしと彼とでは一緒に出掛けない方が良いのかもしれないと言う。今回来る予定だった友人も大人しい人なので、友人でも時々会話する程度のマットとは性格的に合わないのかもしれない。

「それって悲しいよ……ボク、Aとお出かけできて楽しかったけど、そうだったんだ……」

しゅんと肩を下げて声色も悲しそうだ。そこまでされるとは思わなくて、再び声をかけようとする。

「キミにメイワクにならないようにするから！だから、またお出かけしたいよ！」

向こうから声をかけてきたけど、まさかの言葉に目を丸くする。目を潤ませて懇願する姿に、思わず絆された。

「イイの？やったー！大好きなキミを困らせたくないもん、ボクなりにがんばる！」

絆されが強くなると、この笑顔も良く見えるだろうか。すごいことを言われた気がするけど、彼なりのフレンドシップだ。多分。

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