EWの短編集

ジョン ページ47

「あ、A。えっ？絆創膏くれるんだ、ありがとう」

またケガを作っているジョンが前からやって来た。少し悲しくなりつつ、ポケットから絆創膏を取り出して手渡す。嬉しそうににこにこしながら受け取った。

「……鏡無いよね。どこにキズがあるの？きみが付けてくれない？」

返されて、にこにこしたまま顔をとんとんしていた。見えないのかと思いつつ、絆創膏のフィルムを剥がして彼の額に髪の毛を捲り上げて貼ってみる。しかし、片手だけに難しい。

「分かった、これで良い？」

むこうが髪を結構たくしあげてくれたので、生々しい傷が見える。そこに当てて貼り付ける。その間にも少し痛そうに短い声を上げて、両目をきゅっとつむった。

「っ、イダッ！……あ、ありがとう！エドゥアルドに殴られるのも悪いことばかりじゃないね」

悪いことだと断言し、彼の肩を軽くぽんぽん叩く。どんだけ麻痺してんだと思うと、また悲しくなる。それでもきょとんとしている彼は、少し羨ましい気がする。無邪気に近しいからか。

「こうやってAに心配してもらえるなんて、なかなか無いから、嬉しいって思ってるんだ……悪いかな？」

現金な人だと彼を見ている自分の表情は、見えないけど呆れたものになっていると思う。絆創膏が良い味を出して彼の笑顔が輝いて見える。悪い意味に見えない絆創膏は初めて見たかもしれない。思わずポケットに入れていた絆創膏全てを彼に差し出した。

「わ、わ、わっ！？そんなに絆創膏をくれるの！？あはははっ！ぼくってもしかしてAにすごく心配されている幸せ者？」

幸せ者と言わないで欲しい、悲しさに拍車がかかってしまう。彼も少し悲しそうで、苦笑いをしていた。

「えーっと……せめてさ、きみだけでも笑ってくれない？そうじゃないと、ぼくが惨めになっちゃうよ」

前の人の初めて見せる感情と表情に、自分もどんな感情になれば良いのか分からない。ジョン自身もどこか自分自身が嫌なのかと思ってしまう。
強張る表情を作っているかもしれない。だけど、あなたを邪険に扱うつもりはない、と言う。

「嬉しい！きみってやっぱり優しいよ、ぼくはそこも好き。他の人もそういう優しさが好きかもね」

他の人って誰だろう。「Aのよく分かってない顔、久しぶりに見たかも」とバカにされたような発言をされる。ちょっと腹が立ったので、彼のほっぺたをつねった。
少し不運だけど、めげずに頑張って欲しい。わたしも好きだけど、これは言わないから。

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