マット(Future) ページ39
歳を重ねると落ち着きが増すと聞いたことがあるが、それに当てはまる人が身近に何人もいる。
「なんだ、キミか」
怪訝そうな顔を向けた、明るい色の髪がやや少なめのマット。リーダーが渡すように命じていた情報の詰まった端末を手渡し、紛失は厳禁と伝えておく。
「そう、ありがとう……………………返す」
さっそくその端末を使って情報を引っ張り出す。一通り目を通しから、すぐに返した。
昔は今とは正反対な、明るく失礼だけどバカっぽい性格だったのに、今は大分鳴りを潜めている。見た目が昔の彼曰く魅力に満ち溢れていたのとはかけ離れたせいだろう。彼の友人でコーラで狂ったおさわがせな存在が大きいので、彼をとても恨んでいるような言動が多い。昔の風貌を好んでいた上に、実際より老けて見える様子にさせられたきっかけになったら、誰でも恨むと思う。
「ボクをまじまじ見てるけど、もしかして嫌がらせ?」
否定しつつ、用済みになった端末を受け取る。あんまり好きじゃないリーダーにとっとと返却しなきゃ、ホント関わりたくないけど。
それでも卑屈っぽくなったのが悲しい。昔のマットは人懐っこいような性格でもあって、時々恋しい気持ちになる。
「寂しそうな目……ボクが悪いことしたみたいじゃないか……」
面倒くさそうな顔をしたけど、声色はどこか昔を髣髴とさせる。心配してくれているような陰りと少し沈み、それでも底なしの明るさが僅かに滲んでいる。
咄嗟に彼に背を向けて、顔をペタペタ触る。目線なので、鏡でも見ない限り意味が無いと知ったのは数秒後だ。おそるおそる振り返って、自分でもよく分からない表情と心情で話しかける。
「別に良いけど、その目をした理由を知りたい」
そりゃそうか、突然目の前の人がそうなったらわたしも聞き出すだろう。昔のマットの言動を思い出していたと話す。懐古的な心情は、悟られないような口調で話す。だって、その時の彼は何もかも楽しそうで、今の彼は昔をどうやって見るか分からなかったから。それでまた悲しくなって、卑屈が加速するのは悲しいから。
「まさか、昔みたいに戻って欲しいのか?」
そういう訳じゃない、今のままでも十分。あの頃よりちょっと卑屈だけど、大事な人には変わりない。戻らなくたって良い。
「キミは昔からよく分からない人だよ……Aと2人だけなら陽気にふるまう、どうだろう?」
珍しく少し柔らかい表情になった。あの頃を思い出して嬉しくなり、自分も柔らかい表情で頷いた。
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