トリ(ELLSWORLD) ページ27
「A!」
瞬間、背中に冷や汗が流れる。足早に去ろうとしたが、間もなく後ろから抱き締められ、少し茶髪が覗く。
「もう、なんで逃げようとするのよー悲しいわよ?」
室外でも必要以上に絡む茶髪の人は、トリ以外にいない。実際に今も、大勢の行き交う人の目を引いて好奇な眼差しを受ける。彼女と共にこそこそと、今度は人目が少ない場所に移動する。
「どこか行きましょ、アナタとならどこでも良いわ」
そんな気分でなく、ちょっと疲れた。断って1人で帰ろうとすると、彼女がぽんぽんと肩を叩いた。
「アタシの家に来る?アナタが前に、食べたいって言ってたお菓子を買ったのよ」
彼女が手にしているスマホのスクリーンに、先日から食べたいと思っているお菓子の写真がある。国境をまたがないと手に入れられない、ちょっとハードル高めの物だ。そのお菓子を手にしているトリの写真で、すごく羨ましい。彼女の声が甘い囁きにしか聞こえなくなった。
結局、彼女のお家にお邪魔することになった。第一印象は女性の部屋とは思えない、だ。機械が大量に陳列して謎のケーブルが張り巡らされ工具箱がすぐに目に入るなど、研究所かと錯覚する。
「さ、座ってちょうだいな」
その先に通され、先程の機械だらけと違って普通の居住空間と思える部屋に着く。案内されたイスに座り、出されたお茶の入ったカップとお菓子を恐る恐る手にして匂いを嗅ぐ。失礼だけど、相手が相手だけに慎重になる。
「そこまで警戒しなくても良いじゃない!好きな子に盛る程に無粋じゃないのよ」
日頃から信用できないし、好きな子が一瞬誰か分からなかったが、ここにいるのはわたしと彼女だけで察してしまう。
気にせず、個人的に安全と分かったお菓子を口にする。評判が高いだけあって、口に入れた瞬間に甘みが広がる。しつこくない味だが、成分だけに喉が渇くのでお茶を口に含む。アップルティーで、まろやかで口当たりがとても良い。これも仕事場の同僚との話題に上がって気になった物だ。
これを日頃から飲食しているのかと疑問に満ちた眼差しで、さっきからわたしを見るトリに目線を向ける。
「Aが飲みたいって言ってた物を引き寄せたの、美味しいかしら?」
お菓子もお茶もトリに話していない、今度は恐怖に染まって恐る恐る彼女を見る。
「好きな子のありとあらゆる物事を何が何でも知りたい、それがアタシのサガよ?」
わたしに手を伸ばして、ほおに指を這わせる。その表情は、恍惚に満ちていた。
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さとうみさん(プロフ) - 脚立無理さん» コメントと感想ありがとうございます。今更の返信ですみません、最初は勢いとノリだけで書かせていただいたものなので、お見苦しい所が散見いたします。しかし、脚立無理さんがそのように仰っていただけたので、至極光栄です。またお暇な時にご覧になってください! (7月19日 19時) (レス) id: 563e8e19e1 (このIDを非表示/違反報告)
脚立無理(プロフ) - こんにちは、さとうみさん。初めてコメント失礼します。とても読みやすくて、頭でシーンを想像しながら何度も読み返しています。とてもキュンキュンして最高です...( ꈍᴗꈍ) (5月18日 10時) (レス) @page50 id: 130f422966 (このIDを非表示/違反報告)
さとうみさん - 熊井さん» コメントありがとうございます!実はゾンビのサンタのお話を考えていましたが、彼のクリスマスをぼろくそに言うシーンを書きたくてこのお話になりました(笑) (2022年12月25日 19時) (レス) id: aad9d9a6a0 (このIDを非表示/違反報告)
熊井 - やっぱりクリスマスと言ったら、彼ですよね〜(○´∀`○) (2022年12月25日 19時) (レス) @page46 id: 7220adac43 (このIDを非表示/違反報告)
さとうみさん - ミイミイー☆(新アカ)さん» コメントとリクエストありがとうございます!前者はスイッチが入ったら面白いことになりそうな恋人を書いてました。後者は気が付くと危ない話になりました()一応短編集は続編も考えていますが、走り切る気です。ミイミイー☆さんも頑張ってください! (2022年12月22日 13時) (レス) id: aad9d9a6a0 (このIDを非表示/違反報告)
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