EWの短編集

エル(ELLSWORLD) ページ15

マチルダが連れてきたAは、彼女の破天荒な行動に合わせて疲れたのか来て早々にソファに座ったら眠った。
連れてきた本人は、Aにブランケットをかけたら用事を思い出してどこかに行ったし、タマラは今日は一日いないと言うことで、私と彼女で留守番になった。

「……テレビつけても寝てる」

テレビは惰性で見てたけど、次第にチープに感じて飽きてきたので電源をきった。さっきまでテレビをつけていたが、横で眠る存在はまだ起きる気配はない。寧ろこの中でも寝れるなんて羨ましいと思う。
時々マチルダが夜中奇声を発するので、飛び起きてしまう。安眠妨害も良いところで彼女に文句を言いに行くのがお決まりで、奇声を上げた理由も大抵はくだらない。

「早く帰って来てくれないかしら」

今考えているマチルダの突飛な行動は彼女の常だし、今更なこと。溜め息を吐きながら、目の行き場は眠るAへ向かう。すうすうと可愛らしい寝息を立て、一切起きる気配を見せない。少しイタズラしたくなって、ほっぺたを軽くつついてみる。思った以上に柔らかくてクセになって何度もしたけど、短い声を一回だけ漏らしただけで目を閉ざしっぱなし。

「もしかして、ちょっとやそっとじゃ起きない？」

よっぽどのことがない限り大丈夫と確信する。せっかくだし、いろいろやってみよう。彼女の真横について、軽く両方のほっぺたをつねってみる。まぬけな顔で声を押し殺して笑ったけど、やっぱり起きない。
いつもマチルダといてぼんやりしているので声をかけられなかったけど、こういうのを見ると可愛い人だと女の私でも思う。どうしてあの子と友達になったのか、とても不思議。

「マチルダの気持ちが分かる気がするわ……可愛らしいもの」

顔から手を離して、今度はAに負担にならない程度にちょっとだけもたれる。暖かくて、少しだけ甘い匂いが香る。私が男だったら調子だけでなく様々なものを狂わされていたかしら。手を繋いで、イタズラなのか別の感情が動いているのか分からない状態でAを思う。

「友達、かしら……分かんないわ」

彼女に対してどんな感情を抱いているのか分からないけど、こうしているのは悪くない以前に気分が良い。同居人たちが帰って来るまで、こうしていたい。

「……んぇ？エル？……どうして手を繋いでるの？」
「そ、そっちが急に手を繋いできたんでしょ」

思わず嘘をついてしまった。こういうところを直さないと、彼女に嫌われるのかなと思ってしまった。

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