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「昨日、私と一緒に、オムライスを食べてくれたこと」
「私の手を、黙って握り返してくれたこと」
「選別の時に戻るけど……私に、沢山の事を教えてくれたこと」
「私の身を考えてくれたこと」
「私の手を引き、先導してくれたこと」


「……私に、『また会おう』と言ってくれたこと」


私は錆兎くんの顔を見た。ぱちりと目が合う。
彼の綺麗な灰色の瞳を見て、私は目を細めて笑った。

「錆兎くんがしてくれたこと、言ってくれたこと。全部が私の支えだった。……だからさ」



「――ありがとう」



思わず流れそうな涙を、私はぐっとこらえた。

こちらの時代に来てから、涙腺が緩くなったのだろうか。最近はもっぱら涙もろくて困ってしまう。
それを誤魔化す為に、ぬるくなったお茶を飲み干した。

「さてと! 私の話は終わり!……聞いてくれてありがとうね!」
「A」

錆兎くんが、私の名前を呼ぶ。思いのほか真剣な顔つきで。
先程合った、綺麗な灰色の瞳を少しだけ揺らして。

「俺がお前の立場でも、確かに礼を言うだろう。だから、素直にそれを受け取っておく。……けどな」

彼は綺麗な庭へ視線をずらす。

「お前と約束を交わしたのは、俺自身の為でもあるんだ」

俺自身?……錆兎くん自身の為って、どういう事だろう。

「手鬼……お前と俺が出会う契機になった鬼。俺の兄弟子たちを殺した張本人なんだ。だから、俺の手で倒したかった。結果気持ちが焦り、刃こぼれした刀で相対してしまった。……その結果が、あのザマだ」

そこまで話して、彼は眉をしかめた。
はあ、と息を吐きだし、地面へ視線を移す。

「俺らしくもなく、気持ちが沈んでしまってな。お前に再び会う迄に、『更に力をつけよう』と奮起させたかったんだ。」
「……そっかあ」

錆兎くんの気持ちは理解した。それにしても、手鬼……が、彼の兄弟子を喰っていたなんて。仇を打ちたいと思うのは当然だ。それが叶わなくて、心底悔しい思いをするのも。
自分の力が及ばないどころか、ぽっと出の変な格好の女に助けられたのだから、尚更なのだろう。

それでも。それを聞いても、私の気持ちは変わらない。

「でも、私の心の支えになったのは事実だから。……まあ、その。これからも仲良くしてくれると、嬉しいな」

錆兎くんは私の言葉を聞いて、勿論と即答してくれた。









私達の間を、優しいそよ風が通った。
頬を撫で、髪をふわりと持ち上げる。

つられてあげた顔の先には、雲一つない晴天が広がっていた。

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凪暮(プロフ) - 笹さん» はじめまして!小説を読んで頂き、ありがとうございます!錆兎の小説少ないですよね(笑)これからも面白いものを書けるように頑張ります!コメントありがとうございました(´∀`*) (2020年2月23日 0時) (レス) id: f2693a43aa (このIDを非表示/違反報告)
- はじめまして!コメント失礼します。私錆兎が好きで、小説読んでるんですけど少なくて…面白いのに出会えて嬉しいです!これからも頑張って下さい! (2020年2月21日 2時) (レス) id: b0e039ba17 (このIDを非表示/違反報告)
凪暮(プロフ) - 愛さん» ご指摘ありがとうございます。もっと面白いものにできるよう、更新頑張りますね! (2020年2月10日 12時) (レス) id: 8a0d382133 (このIDを非表示/違反報告)
- 文が淡々としてる気がします。でも面白いので、頑張って下さい (2020年2月10日 2時) (レス) id: f2693a43aa (このIDを非表示/違反報告)
凪暮(プロフ) - せなさん» ありがとうございます!更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします! (2020年2月8日 15時) (レス) id: 8a0d382133 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:凪暮 | 作者ホームページ:https://twitter.com/yume_nlmosuki  
作成日時:2020年2月1日 15時

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