別れ ページ46
「……元気でね」
「うん、お姉ちゃん達も」
現場作業が終わり、春子ちゃんとのお別れが近づいていた。
私達は、春子ちゃんとさよならの挨拶をする。
春子ちゃんは女性の隠に手を引かれた。先程まで、私がしていたのと同じように。
「春子」
錆兎くんが呼び止める。私はそれに少し驚いた。彼は必要以上の会話を避けている様に思えたから。
春子ちゃんはそれに答えるために、立ち止まって振り返った。
「なあに?」
「……」
錆兎くんは言葉を選んでいた。一旦口を閉じ、ゆっくりと瞬きをする。
そして再び口を開き、柔らかな中に芯を持った眼差しで――
――心から、彼女の将来を案じる声で話しかけた。
「この先を……自分の信念に従って進めよ」
錆兎くんはそう言うと、少し眉を下げた寂しそうな表情をした。
春子ちゃんはこくりと頷き、また前を向く。手を握り返すのが見えた。
もう春子ちゃんは何も言わない。何も返さない。
それは彼女の決意表明にも思えて、私は喉の奥がツンとするのを感じた。
……彼女がどうなるのか。それは一介の隊士と見習いにはわからない事だ。
親戚が居るならばそちらへ行くのだろうし、身寄りがないなら厳しい生活が待っているのだろう。
でも。
春子ちゃんならきっと大丈夫だ。両親が亡くなったことが、皮肉にも彼女の成長に繋がってしまったところも有るけれど。
春子ちゃんのあの背中を見れば。錆兎くんが送った言葉が届いているのならば。
きっと大丈夫だと思う。心配ではあるけれど。
……ああ、そうだ。私はふと思いつく。
彼女の生活が落ち着いた頃合いを見計らって、手紙を書こう。宛先くらいは教えてもらえるだろうか。
いやその前に、私は字の練習をしなくては。最近はなかなか文字を書く暇が無かったから、きっと凄く汚くなっているだろう。
それで、取り留めのない会話が出来たらいい。
私は実現するかわからない理想を思い浮かべ、そして、寂しくなった右手を錆兎くんの左手に繋いだ。
錆兎くんは一瞬こちらを見る。彼は少し目を細めた後に、繋いだその手をぎゅっと握り返えしてくれた。
「……秋田さんの所、いこっか」
「そうだな……」
この時代、付き合ってもいない男女にあるまじき事。
それでも、このぬくもりを手放したくなかった。この手の暖かさが、今の私にとっての救いだった。
私達は向こうで待機している秋田さんへ、ゆっくりと近づく。
通りの明かりは全て消えていた。
41人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
凪暮(プロフ) - 笹さん» はじめまして!小説を読んで頂き、ありがとうございます!錆兎の小説少ないですよね(笑)これからも面白いものを書けるように頑張ります!コメントありがとうございました(´∀`*) (2020年2月23日 0時) (レス) id: f2693a43aa (このIDを非表示/違反報告)
笹 - はじめまして!コメント失礼します。私錆兎が好きで、小説読んでるんですけど少なくて…面白いのに出会えて嬉しいです!これからも頑張って下さい! (2020年2月21日 2時) (レス) id: b0e039ba17 (このIDを非表示/違反報告)
凪暮(プロフ) - 愛さん» ご指摘ありがとうございます。もっと面白いものにできるよう、更新頑張りますね! (2020年2月10日 12時) (レス) id: 8a0d382133 (このIDを非表示/違反報告)
愛 - 文が淡々としてる気がします。でも面白いので、頑張って下さい (2020年2月10日 2時) (レス) id: f2693a43aa (このIDを非表示/違反報告)
凪暮(プロフ) - せなさん» ありがとうございます!更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします! (2020年2月8日 15時) (レス) id: 8a0d382133 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:凪暮 | 作者ホームページ:https://twitter.com/yume_nlmosuki
作成日時:2020年2月1日 15時