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感情 ページ42

錆兎くんは、背中越しに春子ちゃんの声を訊く。
言葉で返さずに、刀を握り直してそれに答えた。

「はあ？」

鬼は心底嫌そうな声で、春子ちゃんを睨みつけた。

春子ちゃんは依然泣き続けている。

「春子、こちらに来なさい。お前がこちらに来れば、このガキどもを逃がしてあげよう」
「黙れ！！」

そう言ったのは春子ちゃんだった。幼さに見合った高い声で、強い口調で、腹の中から大声を出した。
彼女の沸点を超えたのだろう。

「わたしは――わたしは！！ そちらになんて行かない！！ 死んだってお前の下にいくものか！！」

先程とは打って変わって、激情的に鬼を責めた。愛らしい顔を、歯茎が剥き出しになるのではないかという程に歪めている。

「はあ。随分反抗的じゃないか。俺は父親……」
「違う！ 鬼になって、わたしの大好きなお父さんは死んでしまった！」
「……」
「お前は父親じゃない！ わたしのお母さんを……殺した、仇だ！！」

春子ちゃんは肩でふうふうと息をした。言いたいことは全て出きったようだった。

「春子、もう良いな」

錆兎くんは後ろ姿で春子ちゃんに問いかける。

「もう、充分だな」
「……うん。ありがとう」

それを合図に、錆兎くんは再び駆け出した。




◆



「――まて、まて！ 俺が悪かった！」

鬼は錆兎くんの猛攻により、死地へと追い詰められていた。
それはあっという間の出来事。何回か型を繰り出し、腕を斬り、足を斬り、残るは首だけといった状態だった。

「お前に同情の余地は無い」
「た、頼む！後生だから……」
「言い訳は閻魔の前でしろ」
「まっ……」

鬼は必死に命乞いをする。それを錆兎くんは受け入れない。当たり前だ。あんなむごい茶番を繰り広げられたら。

私は春子ちゃんをちらりと見た。彼女の体は震えている。
もう限界を迎えているのだろうと勝手に解釈する。この年の子が、ここまでまっすぐに立っていた事が奇跡なのだから。

ただ、ただ。何故か縋るような目つきをしている。恐怖を移している様な。
止めてくれ、と言いたげな――

そして。

錆兎くんが刀を振り下ろそうとしたとき。

「っ……！ お父さんっ……！」

春子ちゃんが駆け出す。

錆兎くんは動揺する。彼は既に刀を振り下ろそうとしていた。水が出ている様に見えたから、既に型は決まっていたのだろう。でも、春子ちゃんのその眼差しを、彼は見つけてしまう。

「っ！！」

水の呼吸・伍ノ型 干天の慈雨――！！

鬼の首が、ストンと落ちた。

鬼が気が付かぬ間に、コロンと転がった。

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凪暮(プロフ) - 笹さん» はじめまして！小説を読んで頂き、ありがとうございます！錆兎の小説少ないですよね（笑）これからも面白いものを書けるように頑張ります！コメントありがとうございました(´∀｀*) (2020年2月23日 0時) (レス) id: f2693a43aa (このIDを非表示/違反報告)
 笹 - はじめまして！コメント失礼します。私錆兎が好きで、小説読んでるんですけど少なくて…面白いのに出会えて嬉しいです！これからも頑張って下さい！ (2020年2月21日 2時) (レス) id: b0e039ba17 (このIDを非表示/違反報告)
 凪暮(プロフ) - 愛さん» ご指摘ありがとうございます。もっと面白いものにできるよう、更新頑張りますね！ (2020年2月10日 12時) (レス) id: 8a0d382133 (このIDを非表示/違反報告)
 愛 - 文が淡々としてる気がします。でも面白いので、頑張って下さい (2020年2月10日 2時) (レス) id: f2693a43aa (このIDを非表示/違反報告)
 凪暮(プロフ) - せなさん» ありがとうございます！更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします！ (2020年2月8日 15時) (レス) id: 8a0d382133 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名：凪暮 | 作者ホームページ：https://twitter.com/yume_nlmosuki  
作成日時：2020年2月1日 15時

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