裏の顔 ページ32
「大丈夫だよ」
私は春子ちゃんの手を握った。柔らくて小さいその手は、私の手にすっぽりと収まる。
暖かいこの手を、裏切ってはいけない。それはある種の使命感であり、義務だった。
「私とこのお兄ちゃんが、必ず悪いやつを懲らしめるから」
「……ああ。そうだな」
今まで黙り込んでいた錆兎くんも、春子ちゃんに視線を合わせて頷いた。きっと、私と同じ気持ちなのだろう。その目は決意に近い感情がこもっている。
対してこのお母さん――私をものすごい剣幕で睨みつけていた彼女は、我に返ったのか、先程の“母親じみた表情”で私たちへ話しかける。
「すみません。この子も、父親を亡くして日が浅いですから……」
春子、と自分の方に来るよう呼ぶ彼女は、その頃には母親の仕草に戻っていた。
優しく春子ちゃんの頭を撫で、立ち上がって手をつなぐ。
「それでは」
少し強めに春子ちゃんの手を引く彼女は、形式的に頭を下げ、それ以降振り返らなかった。
◆
「春子ちゃんのお母さん、なんか怪しいよね」
私は錆兎くんに話しかける。
「……考えにくいが、母親は鬼と関係あるのかもしれないな」
「実際に鬼と人間が繋がっていた、という事例はあるの?」
錆兎くんは、顎に手を当てて何か考え込んでいる様だ。私の質問は、どうやら聞こえてないらしい。こちらに見向きもしないのが、何とも寂しいなと私は思った。
「ねえ錆兎くん。明るいうちに、お父さんが襲われたっていう路地に行ってみない?」
出来るだけ明るい声を出した。別れ際の春子ちゃんの表情が、頭から離れない。気分が少し沈んでしまったのは、錆兎くんも同じではないか……そう思って。
「ああ。もしかしたら、何か手がかりが掴めるかもしれないな」
錆兎くんが私の提案に乗る。
私に見向きもしない錆兎くんを追いかけて、私たちは花屋敷を後にした。
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凪暮(プロフ) - 笹さん» はじめまして!小説を読んで頂き、ありがとうございます!錆兎の小説少ないですよね(笑)これからも面白いものを書けるように頑張ります!コメントありがとうございました(´∀`*) (2020年2月23日 0時) (レス) id: f2693a43aa (このIDを非表示/違反報告)
笹 - はじめまして!コメント失礼します。私錆兎が好きで、小説読んでるんですけど少なくて…面白いのに出会えて嬉しいです!これからも頑張って下さい! (2020年2月21日 2時) (レス) id: b0e039ba17 (このIDを非表示/違反報告)
凪暮(プロフ) - 愛さん» ご指摘ありがとうございます。もっと面白いものにできるよう、更新頑張りますね! (2020年2月10日 12時) (レス) id: 8a0d382133 (このIDを非表示/違反報告)
愛 - 文が淡々としてる気がします。でも面白いので、頑張って下さい (2020年2月10日 2時) (レス) id: f2693a43aa (このIDを非表示/違反報告)
凪暮(プロフ) - せなさん» ありがとうございます!更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします! (2020年2月8日 15時) (レス) id: 8a0d382133 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:凪暮 | 作者ホームページ:https://twitter.com/yume_nlmosuki
作成日時:2020年2月1日 15時