修行 ページ17
端的に言って地獄だった。
本当にきつい。勿論部活動なんて比にならない。全身の筋肉が悲鳴を上げて、吐き気が止まらない。訓練を始めて一週間の頃なんか、体がけいれんを起こしてろくに眠れなかった。
休む暇なんて片時も無い。日が暮れ、夕食の準備を終えてから解放される――そんな日々が何日も、何日も続いたある日。
家の近くにある山の頂から、麓までの道を走りこんでいた時だった。
ふっと、息が軽くなった。それだけじゃない。鉄の味がした口の中も、はち切れそうな肺も、重くて耐えかねていた四肢も。
ふわりと軽くなり、全てが楽になる。
私は舗装されていない下り坂を、障害物を避けて着々と進む。たった五秒前まで、本当に辛かったのに。
目の前の大岩を軽く跳ねあがった。
大木に足を掛け、枝を踏みつけて前の木に渡った。
地面に生えた木の根に、足元を掬われた。なので、そのままぐるりと体を回して着地した。
そして、また、一直線に走り続けた。
気が付いたら家の前に居た。自分に何が起こったのかわからなかった。
家の戸を開けて、中にいる秋田さんに声をかける。秋田さんは驚いた様子で、今日の修行はもういい、と言った。
その日は初めて、秋田さんが夕食を作ってくれた。
◆
「ひと月だ」
「ひと月?」
お腹一杯にご飯を食べて、泥のように眠って。いつも通り夜明けと共に起床した、今日。
支度を整えたら私室に来るように、と秋田さんに言われ、座布団に正座するタイミングで切り出された。
開口一番にそう言うから、私の鈍い脳は理解しない。なにが、ひと月?
「お前の面倒を見るようになってから、ひと月が経った」
そう言われてやっと納得する。もう一ヶ月も経ったんだ。
あっという間だった。毎日修行、修行、修行の繰り返し。自分で選んだ道だから不平不満を口に出しはしなかったけれど、何度もくじけそうになった。心の中では何回も悪態をついた。
我ながら根性が腐っていると思う。だって世話になっている身でこんな事、ただの我儘だ。駄々をこねている、幼い子供。
でも、そんな幼稚な自分でも、一ヶ月はこの厳しい修行についてこれた。少しは性根も鍛えられたと自負している。
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凪暮(プロフ) - 笹さん» はじめまして!小説を読んで頂き、ありがとうございます!錆兎の小説少ないですよね(笑)これからも面白いものを書けるように頑張ります!コメントありがとうございました(´∀`*) (2020年2月23日 0時) (レス) id: f2693a43aa (このIDを非表示/違反報告)
笹 - はじめまして!コメント失礼します。私錆兎が好きで、小説読んでるんですけど少なくて…面白いのに出会えて嬉しいです!これからも頑張って下さい! (2020年2月21日 2時) (レス) id: b0e039ba17 (このIDを非表示/違反報告)
凪暮(プロフ) - 愛さん» ご指摘ありがとうございます。もっと面白いものにできるよう、更新頑張りますね! (2020年2月10日 12時) (レス) id: 8a0d382133 (このIDを非表示/違反報告)
愛 - 文が淡々としてる気がします。でも面白いので、頑張って下さい (2020年2月10日 2時) (レス) id: f2693a43aa (このIDを非表示/違反報告)
凪暮(プロフ) - せなさん» ありがとうございます!更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします! (2020年2月8日 15時) (レス) id: 8a0d382133 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:凪暮 | 作者ホームページ:https://twitter.com/yume_nlmosuki
作成日時:2020年2月1日 15時