遡行軍のスパイの話 (ページ48)

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48話ページ48

厚樫山を偵察で来ていた短刀は部隊が全滅したため刀剣達に見つからないよう草陰に隠れていた。

「一兄、ここなんでしょ？あの二人が出会ったの！」
乱藤四郎が兄の一期一振に話しかける。

「…あぁ、そうだよ。」
一期一振はどこか寂しそうな顔で答えた。

「僕まだ会ったこと無いんだよねー」

「俺は直接話したことは無いですけど。
でも、とっても綺麗な方でしたよ！」

自慢気に語る鯰尾を乱は羨ましそうに見つめた。

「ほんと、どうして鶴丸さんは僕等に会わせてくれないんだろう。一回くらい会ってみたいなぁ…」

「今度、潜入しちゃいますかね！」

鯰尾の提案に乱が顔をパァッと明るくすると
「 ……辞めておいた方がいいでしょう。」
と、宗三がどこか遠くを見つめながら言った。

乱は鯰尾と顔を見合わせる。

「どうして？」

「人の恋路を…というものです」

そんな仲間の様子に、燭台切は

「良かったなぁ」

と、嬉しそうに微笑んだ。

短刀はふといつも昆布をくれた刀を思い出す。
机の左の引き出し。そこにいつも昆布が仕舞われているのを短刀は知っていた。
手紙を届けると笑いながら引き出しを開けてくれる。
だから、上からの手紙を率先して運んでいたのだ。
今、あの誰も居なくなった部屋は埃が溜まっているかもしれない。

「今度作ってあげようか？」
そう言って頭を撫でた彼女のおにぎりはもう口にすることは無いのだろう。

短刀は楽しそうに会話する彼等に背を向けてソロソロとその場を後にした。

短刀の目に落ちたのは雨か。

それとも。

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「よろしくお願いします！」
真新しい袴を履いた見習いは目の前の審神者に頭を下げた。顔には緊張が浮かんでいる。

「こちらこそ。この研修を有意義なものにして下さい」

ニッコリと笑った審神者は近侍を呼んで、見習いの案内をするように言った。
見習いは現れた刀剣にも「よろしくお願いします」と、頭を下げる。

「僕は燭台切光忠。よろしくね、見習いさん」
「はい！」

元気よく返事をした。

審神者と別れ、燭台切の後を追いながら
見習いはこの本丸の広さに息を呑んだ。

「とても広いんですね。」
「まぁ、他の所と比べるとそうかな？
審神者の趣味みたいなものだけど」