遡行軍のスパイの話 (ページ45)

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45話ページ45

大量の桜吹雪の中から現れたのは真っ白い刀。

「…鶴丸国永」

遠くからでもすぐに分かった。

彼はあの本丸の鶴丸さんだ。

慌てて端末を操作し援軍を要請する。
彼のせいで味方が大量に減ってしまった。
彼一人の出陣ではないだろう。
あと五振りいるはずだ。

まずい、本当にまずい。

「応援要請した。なんとか持ちこたえて」

通信装置で戦っている彼等に連絡する。

落とした双眼鏡をもう一度拾おうとした時

後ろから察した気配にバッとその場から飛び退いた。

ザンッと地面に刀が突き刺さる。

「… あなたは…」

そこに立っていた人に目を見開く。

まさか、全員バラバラの所に降りてきているのか？

突き刺さった刀は粟田口の兄であった。

太刀の気配に気づけなかったなんて、
偵察部隊失格だろと自分に苦言はく。

鶴丸さんに気を取られすぎだ。

私は刀を抜いて構えた。
そんな様子の私にあろうことか一期さんは
突き刺した刀を鞘に収める。

「…お久しぶりですね」

「……」
この人は何を考えている。
警戒心を緩めずに黙って見つめた。

「 … 貴女には感謝しているのです。
確かに貴女は敵で私達を欺いていたのでしょう。でも、貴女が来なければあのままだったと思うのです」

「……私を殺さないのですか」

「…鶴丸殿が貴女を血眼で探しています。
毎日、出陣してるのです。私が手を下せば恨まれてしまう」

「…鶴丸さんに殺させたいと」

「いえ、違います。その反対です。言ったでしょう感謝していると。
そしてこれは個人的なことですが、
私は貴女に惹かれておりました。」

私は思わず目を見開いた。
揶揄うような雰囲気ではないし、
嘘をついているようにも見えない。
でも…。

彼は一度瞼を閉じて息を吐き、私を真っ直ぐ見つめた。

「貴女が好きです。
だからこそ、二度と戦場に来ないで欲しい。」

「……」
私は何にも言えなかったし、言う必要もないだろう。

彼は逃げろと私に言っているのだ。
殺さないと。裏切った私に。

「堕ちかけた私を貴女は救ってくれた。
皆、心の中では感謝してるのです。
しかし、貴方達がいなければ私達が傷つくことも無かったというのも事実。
ならば、私が貴女に出来ることといえば
来るなと言うことだけなのです」

「…… それは…」

私がそこまで言いかけた時、彼はハッとあたりを見回した。
「鶴丸殿が来ます。貴女はここから立ち去ってください」