遡行軍のスパイの話 (ページ32)

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32話ページ32

ふと、切り替わった画面に

「…なにこれ」
と、思わず声を出して釘付けになる。
画面に映されているのは刀剣情報。
刀剣が破壊された場合は報告をしなければいけないらしいが、この本丸は破壊数が0と表示されている。
明らかに改ざんされた痕跡があった。
しかし、改ざんされたのはそれだけではない。
次々と表示されていく審神者の不正の証拠。

それも全てこのUSBに取り込まれている。
そう思った時、ふと頭にある考えがよぎった。

もし、このデータを…。

そこまで考えて、駄目だ駄目だと頭を振る。
そんなことをすれば私が怪しまれるのは確定だ。

ピロリンとコピー完了の音がなる。
私はUSBを取り外しポケットにしまい
パソコンの画面を閉じた。

ふぅと息を吐き立ち上がり、
モニター室の襖に手をかける。

開こうとした瞬間、ドタドタと遠くから此方に近付いてくる足音が聞こえてきた。

「………‼」

ビクッと心臓が飛び跳ねる。
手を襖にかけたまま、身体は足に根がついたかの様に動かない。

まさか、審神者が。
少し前に出て行ったばかりじゃないか。
この部屋の出口はここしかない。
今出たら間違いなく鉢合わせする。
隠れる？でも、この機械しかない部屋のどこに。
背中にたれる冷たい汗が止まらなかった。

「まさか、財布忘れるなんて」
そんな声がふと耳に聞こえてきた。

バッとパソコン隣に黒い革財布が置かれているのが目に入る。

私は慌ててそれを掴みモニター室から
審神者部屋の方へ音を立てない様
優しく放り投げた。
丁度、審神者が入る襖から目につく
位置に辿り着かせる。

「ん？あれ？俺、こんなところに財布置いたっけ？まぁ、いいか！」

ズカズカと部屋に入った審神者はその財布を手に取りすぐに踵を返した。

足音が聞こえなくなったところで
私はモニター室を出て慌てて押入れに入る。

真っ暗な通路を急ぎ足で進み
部屋に到着して壁に背を預けて
はぁ…と息を吐いた。

心臓はまだ口から飛び出そうなくらい鼓動している。

今回は本当に危なかった。
一歩間違えれば確実に見つかっていた。

私はポケットからUSBを取り出す。

手に伝わる冷たさに安心した。

情報は手に入った。
あとは、この本丸から出ていくだけだ。