遡行軍のスパイの話 (ページ27)

今日:16 hit、昨日:17 hit、合計:84,988 hit

27話ページ27

「鶴さんの手当てをしたのは君だよね？」

「え、まぁ、はい。」
確かに包帯は巻き直したが、手当てと言われると微妙なところだ。
だから私は曖昧な返事をした。

「鶴さん、怪我負ってるのに真っ先にこの部屋に向かったんだ。流石に驚いたよ。」
「はい、それは私も不思議に思いました。
鶴丸さんは無意識だったと言っていましたが。」

そう言うと燭台切さんは少し笑みをこぼして
「…鶴さん、少しずつだけど君に心を開いているみたいなんだ。この本丸に鍛刀されてから、ずっとギリギリの状態で過ごしてきて…。この前のおにぎりの時なんて、あんな顔ここに来て初めて見たよ。」
と、どこか嬉しそうに呟いた。

心を開いている。そんな気はしないわけではないが。

「そ、うですか。」

掠れた声が口からこぼれた。

私の心はサーと静かに冷めていく。
何故か次に来るであろう言葉を私は察してしまった。
しかし、黙って待つことしか出来ない。

「鶴さんのこと支えてあげてくれないかな？」

「ーーー」
返事をしようと口を開いた。
しかし、はい。そのたった二文字が口から出てこない。

「？どうしたの？」
「……。」
何にも答えない私に燭台切さんは不思議そうな顔を浮かべたが、私はどうしても答えられなかった。

ーーーーー

しばらく間があいて、私は話を変えようと口を開いた。

「審神者のこと、教えてくれませんか？」

彼は少し目を見開いた後、少し嫌そうな顔を
する。

「審神者？」
「はい。そもそも、女好きといっても女なら誰でもいいわけではないですよね？私を差し出そうっていったって好みじゃなければ意味がないのではと、ふと思いまして」
「……僕も比較的後に来た方だから。
でも、前に聞いたけど、毎週水曜日は必ず万屋に出かけて女の人に会いに行くって」
「…へぇ。」

私は静かに呟いた。

水曜日、良いことを聞けた。
その時が狙い目かもしれない。
後はその日の出陣、遠征のメンバーで判断するしかないが。

そんなことを考えていると燭台切さんが
でもと、呟いた。

「君は美人だから、絶対気に入られるよ。
だから、やっぱり駄目だよ。」

……。私はすっかり彼が伊達男だということを忘れていた。