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第十話 ページ44

いや待て、侍さんは此処にいるのか?
もし、術により異様な空間に入り込んでしまったとしても、私に憑いている彼がいないはずはない。
とにかく、一人よりも二人だ。

「侍さんー!!!ここにいるんですかーーー??」

広い空間で私の声は虚しく響いた。
返事はない。
浅はかだった。
そもそも侍さんがこの異常事態に黙って隠れているわけがない。
きっと先程の『目を覚ませ』という声は彼だったのだろう。
目を覚ませ、という言葉からここは夢の中であるとすると、侍さんがいないことにも納得がいく。

とにかく立ち止まっているのもどうかと思い、少し歩いてみることにした。
しかし、一歩踏み出す前に、突如目の前の地面が盛り上がり私は踏みとどまる。
根から掘り起こされた彼岸花がヒラヒラと青い花弁を散らした。
彼岸花の根には毒があると聞くため少しだけ後ろに下がる。
黒い土は手を加えずとも独りでに動き、人物を二つ形成した。
見覚えのある二人である。

「…お前の剣の腕では鬼を殺すことはおろか、呼吸すら身につけられないかもしれない。」
「気持ち悪いんだよ!何もない空間をじっと見てて、寒気がする。」

先の夢でも出てきた師匠と兄弟子だった。

二人は交互に告げていく。

「無理して剣を握る必要はない。お前は女だ。他に幸せになれる生き方を探せ。」
「剣の才能もない、ただ飯くらいが何でいつまでも此処にいんだよ!女なんだから身売りでも何でもして、せめて役に立てよ。」

これは夢と言うべきだろうか。

いや、何にせよ、この鬼は実に趣味が悪い。もとより、この一面に咲き誇る青い彼岸花こそ私への煽りである。
唯一残された顔も知らない肉親との繋がりが今、私が着ている羽織。
青い彼岸花を見れば嫌でも私は親を連想する。
さらに、目の前にいる二人。
私を拾ってくれ、育ててくれた師匠には、感謝しても仕切れないほどの思いがある。
でも、彼にとって剣は人生の半分だ。
幼い頃の、侍さんと出会う前の私にとっては師匠が人生の全てであった。そんな子供が、師匠の半身である剣を諦め、他の幸せを探せなどと言われて納得できるはずはないのだ。そのことを彼は分かってはくれなかった。
そして、兄弟子とは昔から性格が合わなかった。私の存在自体が気に食わないようで、
いつもいつも突っかかり、罵倒する。
私自身も嫌悪していた。

第十話→←第十話 夢か現か、そう、それが問題だ。



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- とても面白いです!!続編楽しみにしてます!! (2020年6月5日 9時) (レス) id: a49d59262b (このIDを非表示/違反報告)
花浪(プロフ) - いつも楽しみにしています!とても面白いです!続編でも頑張ってください!! (2020年5月31日 22時) (レス) id: ade9f5ce10 (このIDを非表示/違反報告)
- (個人の予想ですけど)侍さん多分継国縁一ではないかって思うのです (2020年5月22日 0時) (レス) id: 08cfac3417 (このIDを非表示/違反報告)
花浪(プロフ) - 額に痣と虚無が着物着たような人で分かりましたww 更新いつも楽しみにしています!頑張ってください!! (2020年5月9日 0時) (レス) id: ade9f5ce10 (このIDを非表示/違反報告)
- めっちゃ好きです!以前からあなたの小説を拝読していましたが、今回も凄いですね!!更新頑張ってください! (2020年5月6日 14時) (レス) id: 60842cb6dc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:杏子メロンパン | 作成日時:2020年5月4日 20時

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