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第九話 ページ41

何かが頭をよぎった気がしたのだが、気のせいだろうか。
不思議なことに、あの後、兄弟子と料理をして師匠と共にご飯を食べても私の違和感は消えなかった。
ご飯の味もする、弾む会話。
私は赤子の頃に拾われてずっとここで師匠とその弟子達と暮らしている。
何にもおかしなことはない。
このご時世、売られたり悲惨な目に遭うことなく、此処で優しい人達と慎ましく暮せるのはとても幸運なことだ。
ささやかな幸せとはこういうことを言うのだろう。


食事を終えて片付けをしていると、不意に普段自分が羽織っている物が無いことに気づいた。黒い羽織。親の形見だ。

「あれ、私、羽織りをどうしたんだっけ。」

私が首を傾げていると、ちょうど兄弟子が目の前を通りかかったので声をかけた。

「私の羽織り、見なかった?」
「ん?…いや、見てはいないが。無くしたのか?」
「…何処に置いたのか覚えてなくて」
「稽古の前なら…水汲み場じゃないか?今日、お前行ってただろ?」

…そうだっけ?
まるで頭に霧がかかっているかのように記憶が曖昧だ。
でも、稽古の前に水を汲みにいくのは良くあることである。
今日の私はどこかおかしい。
彼が私の行く所を見たというのだから、きっとそうだろう。
早く寝てしまいたいが、あの羽織りを置きっ放しにするのも気が引けるので、私は礼を述べて、水汲み場に行ってみることにした。

都会とは異なり山ならば光もあるわけが無い。暗闇の中を木々を潜り抜け、足早に進んでいくと、
次第に目が慣れてきた。
冷たい夜風に吹かれた木が枝をガサガサと揺らしている。
そんな何気ない音にさえビクリと異常に反応してしまった。
私、こんな怖がりだっけ。
山育ちなのに夜の山が怖いなんて情けないな。幽霊に怯える子供じゃあるまいし…。

いつもの水汲み場へと辿り着けば、近くにある大きな石の上に何かが置かれているのが見えた。
きっと羽織りだ。その時の状況はいまいち思い出せないが、脱いであの石の上に置いたんだろう。

慌てて駆け寄ってみると思った通りで、手に取り、確認として広げてみる。
黒い布地に青い彼岸花。
間違いない、私の羽織だ。

「見つかって良かった。」
そうほっと息を吐いた時だった。

「目を覚ませ。」
右耳から聞こえた声にビクッと身体が跳ねる。すぐさまその声の方向へと顔を向けるが
そこには何もなく、ただ自分の歩いてきた道が木々の中へと続いているだけであった。

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- とても面白いです!!続編楽しみにしてます!! (2020年6月5日 9時) (レス) id: a49d59262b (このIDを非表示/違反報告)
花浪(プロフ) - いつも楽しみにしています!とても面白いです!続編でも頑張ってください!! (2020年5月31日 22時) (レス) id: ade9f5ce10 (このIDを非表示/違反報告)
- (個人の予想ですけど)侍さん多分継国縁一ではないかって思うのです (2020年5月22日 0時) (レス) id: 08cfac3417 (このIDを非表示/違反報告)
花浪(プロフ) - 額に痣と虚無が着物着たような人で分かりましたww 更新いつも楽しみにしています!頑張ってください!! (2020年5月9日 0時) (レス) id: ade9f5ce10 (このIDを非表示/違反報告)
- めっちゃ好きです!以前からあなたの小説を拝読していましたが、今回も凄いですね!!更新頑張ってください! (2020年5月6日 14時) (レス) id: 60842cb6dc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:杏子メロンパン | 作成日時:2020年5月4日 20時

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