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第五話 外面似菩薩内心如夜叉 ページ17

泣きたい。
いや、もう泣いている。
産屋敷邸はとても複雑な方法で隠されていると聞いていたが、やっぱり頭の良い人は凄い。本当にそう思った。
というか、侍さん何処だよ。
何故か此処に着いて早々に姿が消えたんだけど。

悶々としている私に、
「よく来てくれたね。一度君と話がしたかったんだ。」
と、水晶玉のような瞳が向けられた。

発せられた声だけで人知を超えた何かを感じる。
しかし、同時に私には見えた。
儚気な外見とは反して、この屋敷に蠢いている人達の悍しい執念とも呼べるものが。
そしてそれは目の前のお館様からも感じる。
まるで、外面似菩薩内心如夜叉のようだ。
私はこの場所が今までで一番恐ろしいと思った。鬼のいる場所よりもずっと。

「そう固くならなくても大丈夫だよ。」
「‥‥‥!」

そうだった。大丈夫、大丈夫だ。
この人達が恨みと殺意を向けているのは私ではないのだから。

「‥はい。お館様におかれましては、益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。」
「ありがとう。」

形式的な挨拶を交え、
さっそく本題に入っていいかな と言って
尋ねられたのは思った通りの事だった。

「どうして君が単独行動をするのか教えてもらってもいいかな。」
「‥‥。」

すぐには言葉が出なかった。
しかし、お館様は口角を少し上げたまま、私の言葉を待っている。私は意を決して口を開いた。

「‥勘で鬼の居場所が分かるからです。」

穏やかな笑みを湛えたまま、沈黙しているお館様に私は言葉を続けた。

「信じ難いことだと思います。命のやり取りがされる場所にはあまりにも非現実的すぎてふさわしくない。隊士達の混乱も最もですし、私自身、よく分かっていません。」

最後の方は声が震えた。
隊服の裾を握りしめて私は顔を無意識に下げる。
全てを見透かされていると思った。
それでも、言えなかった。
異様なまでの執念が恐ろしいという思いもあるが、この人に言ったら境界を越えて足を踏み入れてはいけない場所に入ってしまう気がした。

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- とても面白いです!!続編楽しみにしてます!! (2020年6月5日 9時) (レス) id: a49d59262b (このIDを非表示/違反報告)
花浪(プロフ) - いつも楽しみにしています!とても面白いです!続編でも頑張ってください!! (2020年5月31日 22時) (レス) id: ade9f5ce10 (このIDを非表示/違反報告)
- (個人の予想ですけど)侍さん多分継国縁一ではないかって思うのです (2020年5月22日 0時) (レス) id: 08cfac3417 (このIDを非表示/違反報告)
花浪(プロフ) - 額に痣と虚無が着物着たような人で分かりましたww 更新いつも楽しみにしています!頑張ってください!! (2020年5月9日 0時) (レス) id: ade9f5ce10 (このIDを非表示/違反報告)
- めっちゃ好きです!以前からあなたの小説を拝読していましたが、今回も凄いですね!!更新頑張ってください! (2020年5月6日 14時) (レス) id: 60842cb6dc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:杏子メロンパン | 作成日時:2020年5月4日 20時

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