御指名は誰になさいますか？ (ページ16)

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私は旧家の娘だった｡

何不自由なく育てられ
幼稚舎から名門校に通っていた｡

22歳の時に大企業の子息と結婚した｡

愛が無くとも仕方ないと思ってはいたが
夫は私に十分過ぎるほどの愛を注いでくれた｡

そして私は娘を授かった｡

なんて順風満帆な人生なのだろうと思った｡

しかし､転落は突如訪れた｡

娘が死んだのだ｡
事故だと報じられた｡
ある種の事故なのだろうと思うが､
私が娘を殺したも同然だ｡

私は娘をどうしても愛せなかった｡
何が､というわけではない｡
ただ､愛せなかったのだ｡

夫は私を責めたりしなかった｡
その代わりに私から距離を取るようになった｡
外に女を作って家に金を入れるだけとなった｡

そんな私が友人に誘われてきたのが
La tormentaだった｡

私は暇さえあればそこに通った｡
智と話している時間が何よりも幸せだった｡

お金は自由にして良いと言われていたから
智に服を仕立ててやり､
画材を十分に揃え､ｱﾄﾘｴを用意した｡

｢こんな…悪いですよ…｣

申し訳なさそうにする智に
｢売れたら絵を描いて､それで恩返しにしてよ｣
と毎回返すのも楽しかった｡

しかし､智が売れる気配はまるで無かった｡

残念に思いつつも
私は心のどこかで喜んでいたように思う｡

智の素晴らしさを知っているのは
私だけなのだ､と｡