御指名は誰になさいますか？ (ページ14)

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side S ページ14

小さい頃から
感情を出すのが苦手だ｡

その所為で大変な思いもしたけど
大学生になってしまえばそんな事も平気で｡

だけど､就職活動中にぶちあった壁は大きくて｡

｢愛想が無い！！｣

何度同じ事を言われたのだろう｡

そんな時､知り合いに紹介されたのが
La tormentaのﾎｽﾄという仕事だった｡

光一さんについている時から
どうやって人と関われば良いか､
何を話せば盛り上がるかを学んだけど
いざ指名客を前にすれば上手く行かなかった｡

だけどそんな俺に｢楽しいわね｣と言った人がいた｡
A様だった｡

俺の話のどこがおもしろいのかと思ったけど
いつだって笑ってくれたし､
いつだって反応を返してくれた｡

そんな彼女に誘われた秘書という仕事｡
咄嗟の事で彼女に冷たくしてしまった｡

｢翔くん､さっきの駄目だって｣
｢智くん…｣
｢あの人泣いてたよ｣

裏で智くんに叱られてしまう｡

泣かせたい訳じゃなかったんだ｡

次の日､彼女に謝罪をした｡
彼女は笑ってこう言った｡
｢本心が聞けたからそれで良いわ｣

あぁ､俺に足りなかったのは本心を見せる事だったのか｡

次に彼女が来店するまでにまた成長しなければ｡

彼女に言われた｢精進なさい｣を糧に｡