一旦 ページ33
「話…するんだよね?」
なんだろうか。記念日を改めて祝おうみたいな?
私は彼の隣に立ち、外の景色を同じく見る。
先ほどの恥をさらした憂鬱な気分は抜けないが、それよりも今彼と二人きりで話をしているということが心底嬉しい。
「Aちゃんは…僕のことが、好き?」
「え?もちろん…好きだよ?急にどうしたの」
何を今更そんなことを聞くのだろう。
好きだから今この場にいるのではないか。
好きじゃなければ、私から別れ話だって切り出している。
ざわっと胸が騒ぐ。
彼の顔が見れない。今すぐ見たい。
「じゃあ、どうして今日僕の前から逃げたの?」
「逃げる…、あぁ、あの時…ね」
そうか。あの出来事は今日起きたんだ。
壮絶すぎて、一週間前の出来事のように思える。
一日で私かなり成長したんじゃないかな。なんても思う。
しかし、彼の問いに私は何も言えない。
まさかいずく君たちを見て、自分の愚かさに気づき逃げたなんて口が裂けても言えない。言いたくない。
「答えにくかったかな。なら、どうして轟くんと…その…抱き合ってたの」
「っ…」
彼の言葉に私は少しピクリと体が動いた。
見られていた。なんてことだ…。
やはりいくら泣いていたとしても、あの場面はまずかったかなぁ。と思い、頬をかく。
月明かりはどうして私の顔ばかり照らすのだ。
彼の、いずく君の顔を見せて。
「僕たち、別れよう」
「え？」
ずるいじゃないか。なぜ私の顔ばかり彼に見られ、彼の顔を私が見れない。不公平だ。
「聞き間違い…だよね」
信じたくない。信じれるはずがない。
いや違う。信じなくちゃ、受け入れなくてはいけない。
その上で、私は彼を止めなければいけない。いけないはずだ。
「別れよう。僕たちは…距離を置いたほうがいい」
「いや…だよ。どうして？私は好きだよ。好きだから、ねぇなんで？」
見苦しくすることが正解じゃない。
こんな行動はするべきではなく、まずは落ち着いていかなければないらないのに。
頭が、上手く働かない。
「だって、Aちゃんは轟君が好きなんでしょ?じゃなきゃ、抱き合ったりできないよ…ね」
「あれはっ!」
言わなくちゃ。勘違いだって。
私にとってとても恥ずべき出来事だったけれども、言わないとダメだ。
ちゃんと、ちゃんとどうしてああなったのか、経緯をちゃんと話さないといけないのに。
「いずく君だって、女の人いたじゃないっ」
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作者名：雪飴 | 作者ホームページ：https://twitter.com/_kz_0
作成日時：2017年7月24日 0時
