複雑怪奇 ページ16
「いや…。なんでもないよ」
そんなこと言ってしまったら、は止めが効かなくなりそうだ。
ヒーローの仕事は人を救うことで、なくてはならないもので、私の気持ち一つで有能なヒーローをどうこうできることなんて許されるわけ無い。
自分のなりたいものが、なりたかったものが、本当に幸せとは限らないなぁ。
いずく君は鈍感だから、私の気持ちは察しれないだろうし、私が口でちゃんと言わなきゃいけないんだけど、きっと無理だ。
「いずく君ってさ、ほんと、デクだよね」
ぶらぶらしていた足を床につけ、勢いよく立ち上がり、振り返りざまにそう言う。
「え!?ど、ど、どういう…」
「デク、デク、デ〜ク」
あぁ、自分で言っといてなんだけど、この言い方はなかなか心苦しいな。
こんなことを平気でいっているかっちゃんは、流石クソッタレなヒーローだ。
私は彼みたいになれないだろう。
再度そう自覚する。
「私さ、ヒーローとして輝いている君が大好きだよ。
だから…さ、頑張ってね」
本当は言いたい。
今度いつ会えそう?もっと私に構って。私が好きなの?好きって言ってよ。何考えてるかわかんないよ。
ぐちゃぐちゃになった気持ちが張り裂けそうだ。
だけど、そんなことをしたら彼に余計な負担をかけてしまう。
それなら、私が気持ちを押し殺していたほうが何倍もマシだ。
「え？まってよAちゃん!」
彼の言葉を切るように、私は病室から出る。
彼が追いかけてこないうちに、走ってはいけない病院の廊下を全力で走る。
これ以上彼といたら、ストッパーが外れそうだ。
こんな気持ち、彼にはして欲しくない。
彼が大切だから、私が、私さえ我慢すれば済むことだから。
彼の隣にふさわしい女なんていくらでもいる。
そんな中、ずっと彼の傍にいるためには我慢するしかないんだ。
こういう時誰かとぶつかって、それが私の知り合いで、悩みを聞いてもらって、そこからハッピーエンド。なんて展開、ずっと望んでいる。
そんな偶然すら、奇跡すら起きないのは承知なのに。
退院する前に何か書類を書かないといけなかったけど、それを放りだしてきてしまった。
あぁ…やっちゃったなぁ。
「はぁ…はぁ…はぁ」
病院の近くには公園がある。
子供を見て元気をだそうなんて魂胆だろう。
少し錆び付いたブランコに私は座る。
ギギィというブランコに、私はそれほど重くない…はずだぞ。と言いたくなった。
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作者名：雪飴 | 作者ホームページ：https://twitter.com/_kz_0
作成日時：2017年7月24日 0時
