彼女に紹介されたお兄さんが同期だった場合の対処法【萩原研二】

□ ページ10

．








海で陣平ちゃんと水泳対決をしている降谷ちゃんを信じられないものを見るような目で見ながら、なにはともあれ漸く一息つける状況になって、久しぶりに諸伏ちゃんの背後から顔を出す。

仲良くすると誓ってから数日にしてお先真っ暗だ。現れたのが降谷ちゃんだった瞬間からお先真っ暗なことには変わらないが、それにしたって一歩先も見えない現状に盛大なため息をつく。


そんな俺を憐れに思ったのか、諸伏ちゃんは降谷ちゃんとはまた違う爽やかな笑みを浮かべると、「ゼロがすまない」と一言謝罪を零した。
自分は勝手に巻き込まれているだけだというのに、降谷ちゃんの言う通りつくづく【優しい】男である。







「でも、あいつも悪気があるわけじゃないんだ。生まれた時から一緒の妹を手放す方法が分からないというか、幼い頃からの癖でつい過保護な面が出てしまうというか。相手が萩原だから、余計にそうなんだと思う」


「それが分かってっから困ってんのよ」







遠くから聞こえてくる喧嘩の声をBGMに、パラソルの下に敷いたレジャーシートに腰を下ろす。その隣に諸伏ちゃんもゆっくりと腰かけた。

……降谷からすれば、俺は二人の間に突然現れた余所者なのだろう。今まで二人三脚で肩を預けあってきた妹が一人で自分の元を旅立とうとしているのだ。それを見送るのはそれなりに覚悟が必要なはずだし、身内が妹だけとなれば余計慎重になってもおかしくない。
なんとかこいつは安全だと心を許してくれればいいが。







「Aちゃんとは高校からなんだっけ？」

「……もしかして降谷ちゃんから聞いた感じ？」

「聞いた感じ。「だから俺は都外の高校に行かせたくなかったんだ！」って、ブチギレながら言われた」

「想像に容易すぎる……」







そういえば前に、中学までは兄と暮らしてたけど、高校は推薦でこっちに来て、今は一人暮らししてる、とか言ってたような。
あの過保護なお兄さんのことだから、一人暮らしするってなった時も相当反対したんだろうな。最終的には妹に嫌われたくない気持ちが勝ったか、はたまた。



兄は兄で積もる心配は尽きなかっただろうけど、Aちゃんの方だって、今まで自分の耳となってくれていた兄の居ない一人暮らしだ。
出来ることならずっと一緒の方が楽なのは本人が一番分かってるはず。
にも関わらず自分から外へ飛び出そうとしているのだから、兄としては強く引き止めることも出来なかったのかもしれない。


所詮は全部、俺の勝手な憶測だけど。







．

□→←男五人で海は華がない

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す