彼女に紹介されたお兄さんが同期だった場合の対処法【萩原研二】

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松田に胸ぐらを掴まれたまま乗用車の上に飛び乗ったところで、漸くあいつらの言葉の意味が分かった。
あれは跳ね上がった車から隣の乗用車に飛び移るための【舌を噛むな】だったのか。無謀にも程がある策だが、実際こうして生きているのだから末恐ろしい。


ていうかお前ら、さっき【あれ】で通じ合ってたよな？まさかこんな破天荒な技を実践したことがあるのか？だとしたらなんでバレてないんだ。可笑しいだろ。




聞きたいことは色々あるものの、今は悠長に話している暇はない。早速伸び切った襟元を整え、バンパーを取り外すという松田の代わりに、僕は前を走るトラックの運転席を目指す。

その間に、いつの間にか萩原も隣を並走していた。彼は運転席の窓から顔を覗かせると「降谷ちゃん急げ！もう道が無い！」と叫んでくる。それくらい言われなくとも分かっているさ。







「くそ、やはり意識はないか」







運転席に体を滑り込ませ、運転手の状況を確認する。意識は戻っていないが、命に別状は無さそうだ。ならば尚更急がなければ。死ぬはずではなかった命を、ここで失わせるわけにはいかない。



即座に運転手の座っている座席のレバーを引き、運転手ごと後ろにスライドさせ、未だ踏み込まれているアクセルを確認する。その足を退ければ、わずかにスピードは緩まった。

だがこれだけのことで、10tものトラックが止まるとも思えない。ブレーキを踏み込んだとしても同じだ。トラックはブレーキを踏んでから普通の乗用車の二倍距離が必要になる。この距離では間に合わない。



一体僕は、どうすれば。







「おいい、た、がんあ、え！」







……A。


なす術の無い状況に、妹の声が脳裏を過ぎる。警察学校に入校が決まった時、わざわざ僕の元まで会いに来て、Aが言ってくれた言葉。

あぁそうだ。今こそ頑張らなければ。
だって僕は、Aにとっての＿＿＿＿＿＿自慢の、兄なのだから。







「っ、アクセルだ！アクセルしかねぇ！＿＿＿踏めぇええ！！！ゼロッ！！！」







萩原の言葉を合図に、使い込まれたトラックのアクセルを思い切り踏み込む。それと同時に、加速するエンジン。あぁほんと、今日はお前らの破天荒な考えに驚かされっぱなしだよ。

まさか道のギリギリで止めるのではなく、いっそ向こう側へ飛んでしまおうなんて考えに至るとは。
どの道このままではトラック諸共落下していた。ならば僕は、お前のその無謀にも思える策に乗るよ。萩原。







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