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お先真っ暗な状況にプラスして、店を出て行った降谷ちゃんの絶対零度な瞳が蘇ってくる。
「俺は絶対にお前を義弟とは認めないからな」そう言って立ち上がった彼の声は、間違いなく俺を殺す気満々の声だった。
今日のところは辛うじて別れろとまでは言われなかったが、彼らの両親がもう居ない以上、いずれは挨拶しに行く相手。今の内に「まぁお前なら許してやる」と思わせるくらいの関係値になっていなければ。さもなくば待っているのはAちゃんと別れる未来。
……ダメだ、想像しただけで死ねる。
「けんいく、おにいたと、あかよく、なえそ?」
「うーん、ちょっと難しいかも」
彼女に心配掛けまいと笑顔で手話を返すが、人の感情には人一倍敏感な子だ。
すぐさま俺の胸の奥底に眠る不安に気づいてしまって、華奢な真っ白な両手が、「大丈夫」という動きをしていた俺の両手を包み込む。
その時改めて、彼女の腕の細さに気がついた。
警察学校に入ってから大した月日は経っていないというのに、高校の時とは違って、いつの間にか一回りくらい差が出来ている。
そりゃまぁ、俺は毎日腕立てやらなんやらで鍛えているし、ごく普通の大学院生の彼女と比べたら差くらいあるだろうが。
その差が余計に、俺の中の何かを掻き立てた。
……やっぱ俺、諦めきれねぇよ、降谷ちゃん。
「【でも、大丈夫。ちゃんと仲良くなるよ】」
「【ほんと?】」
「【ほんと。君のお兄さんなら、きっと優しい人だろうから】」
正直現段階では人間の皮を被ったゴリラだけども。
Aちゃんにこんなにも過保護なのも、俺にあんなにも手厳しかったのも、全部兄としての責任感からなのだろう。
優しい男かはさておき、少なくとも、この二ヶ月くらいの間であいつがただの上から目線な男でないことだけは分かってる。
教官の首にロープが絡まった時も、あいつは一番責任が伸し掛かる発砲を難なくやって退けた。そんな奴が兄なんだ。手厳しいけど安心したことに変わりはない。
それにあの真っ直ぐな男のことだ。ここで諦めたら、それこそ二度とチャンスは回ってこないだろう。
と言うことはまぁ……俺の努力次第ってとこかな。
「絶対、お兄さんに認めてもらうから。それまで待ってて、Aちゃん」
何度も言うが、惚れた弱みというものはすごい。
俺はあいつみたいに多彩じゃないし、爆弾処理だって陣平ちゃんには劣るし、頭脳も伊達班長達には劣る。
だけど今の俺なら、なんでも出来る気がするんだ。
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うな - 陣平ちゃんが最後らへんで言っていた、2人の結婚式は呼ぶって言ってたのに的な話のとこで止まりかけてた涙が一気に溢れてきました。萩も大怪我なのに最後まで彼女ちゃんを守ろうとしている所がもう…😭最後の写真もすごく素敵だし、大泣しました。大好きです。 (5月6日 15時) (レス) @page49 id: c7c459b30e (このIDを非表示/違反報告)
ひなみ - 読み終わった後、偶然、コナンのEDにもなった「ジューンブライド〜あなたしか見えない〜」を聴いたんですが、この曲の歌詞が妙にこの作品に合っている気がして、またこの作品を思い出して泣いてしまいました。心に残る素敵な作品をありがとうございました。 (2022年10月16日 17時) (レス) id: ba9ab70415 (このIDを非表示/違反報告)
ひなみ - 読み終わった今も涙が止まりません…。まず二人が助からないと分かったところで大号泣、夢主が既に亡くなっていたと分かったところで大号泣、最後の写真で大号泣…。ずっとギャグだったから、こんな結末全く予測していませんでした…。 (2022年10月16日 15時) (レス) @page49 id: ba9ab70415 (このIDを非表示/違反報告)
(名前)(プロフ) - 最後のイラストで涙が止まらなくなりました😭 (2022年6月23日 22時) (レス) id: 1cfa02e0c5 (このIDを非表示/違反報告)
ルリ(プロフ) - まさかの結末で涙が止まらない、、、 (2022年6月14日 19時) (レス) @page48 id: 2eb7e133f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:無糖 | 作成日時:2021年7月25日 15時