彼女に紹介されたお兄さんが同期だった場合の対処法【萩原研二】

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店に入った瞬間、店内を満たすエアコンの冷気に、干からびかけていた体が生き返る。
もう少しで干物になる所だったとまでは言わないが、似た何かになるところだった。もう少し対策してくるべきだったな。

店員の案内の元、Aちゃんの手を引いて一番話しやすそうな窓際のボックス席に腰掛ける。
注文はアイスコーヒーとアイスティー。彼女の方がケーキも欲しいと言うので、それも追加で伝えた。







「けんじ、くん、すごい、れっ」

「そんな大層なもんじゃないんだけどな」







人見知りな彼女からすれば、店員にスムーズに注文が出来る俺が凄く見えたらしい。褒められれば嬉しいのが人間なので「ありがとう」と手話で返す。


注文した物が届いてからお兄さんが到着するまでの時間、俺は心の準備も兼ねて、Aちゃんに双子のお兄さんについて聞いてみた。
妹さんがこんなにも別嬪さんなわけよ。絶対お兄さんも超絶イケメンくるだろこれ。







「おに、ちゃ、はね、うっごく、つよい、の！」


「強い？格闘技とか何かやってるの？」







質問ついでに「話しやすい方でいいよ」と伝えると、Aちゃんは口を閉じて、微笑みながら指先を動かし始める。やっぱり手話の方がスムーズらしい。


お兄さんの話をしている間のAちゃんは、終始幸せそうに頬の筋肉を緩めていた。
よっぽどお兄さんのことが好きなんだろう。Aちゃんに似ておっとりした人なのか、はたまた正反対なのか。



彼女の指先が語ってくれたのは、お兄さんは格闘技はしてないけど、ボクシングがめっちゃ強いってこと。

お陰でさっきから俺の頭の中にはファイティングポーズを取った金髪のイケメンが居座っている。
顔だけはまだ想像がつかないが、なんか見たことある奴がチラつくんだよね。なんでだろ。







「お兄さん、かっこいい？」







首を傾げながら聴くと、Aちゃんはすぐさま「うん！」と頷いた。
おまけに「かっこよくて優しい」とも教えてもらい、じゃあ少なくとも俺が思い描いてる奴ではないなと安心する。


俺が思い浮かべている同期は贔屓目に見なくともかっこいいことは認めるが、決して優しくはない。

柔道ではほぼ初心者である俺のことも本気で投げ飛ばしてくるし、それで怪我をしたところで「ちゃんと受け身を取れ」と寧ろお説教、走り込みで顔面から地面に飛び込んだ時は「遊んでいるのか？」とキレられそうになった。


これのどこが遊んでるのかな？？どっからどう見ても鼻血ダラダラだよね？？？







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