唇とマーマレード 5

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「自分とA以外のものがどうなろうが、俺には全く興味がなくて、
Aが傍にいてくれる、今のこの時間にしか興味がない
…そんな自分が、少しだけ怖いって思う」

重い…。

それはとてつもなく重い話で、要するに私のことしか考えられないっていう、打ち明け話だよね？

だとしたらそれは、どれだけ贅沢な告白なんだろう。

「要するに私のことが好き過ぎて、私のことしか考えられないってことでＯＫ？」

わざと茶化してそう言ってるのに、

「そういうことなんだと思う」

彼は真面目にそう受け止めてしまう。

これはかなり重症だね。

そんな話を聞きながらも私は、さっきからニヤけそうになるのを必死で堪えてるのに。









「それの何が悪いの？
妻のことが好き過ぎて困るなんて、贅沢な悩みだよ
そこまで人を愛せるなんて、幸せなことだと思う」

世知辛いこの世の中、本当に愛する人を見つけられるなんて、意外と難しいのに。

今まで自分以外の人間を愛せなかった分、今まとめて愛が爆発してるだけだよ。

「それに、私も同じように渉さんのことが好きだよ
どこにいるかもわからないのに、わざわざ探しに来るほどに」

その言葉で彼は安心したように、体の力を抜いた。

「私達、幸せだね」

彼の胸にもたれかかるようにしてもう言えば、彼は何も言わないけど、黙って私を抱き寄せてくれた。

大丈夫。

私達は世界で一番幸せな２人だから。









仰向けになったまま、メッセージの続きを読む。

橋本さんからは、彼の安否を心配するメッセージと、業務は滞りなく進んでいるという報告。

そして宏光からも、無事にアメリカで仕事に戻ったという報告と、私達を心配するメッセージが入っていた。

「宏光がいきなり別荘に訪ねて来た時、びっくりした？」

「驚いたけど、北山さんがいなかったら俺達、会えてなかっただろうし」

「嫉妬した？」

「…別に」

嘘だね。

宏光の名前が出た時、一瞬だけ眉間に力が入ったのを、私は見逃さなかったから。









そんな話をしているうちに、手に持っていたスマホが震え始めて、私達の会話はピタリと止まる。。

「若葉からだ…」

「出たら？
大事な話かもしれないし」

彼がそう言うから、恐る恐る電話に出たけど、

『A様、今どちらにいらっしゃいますか？』

いきなりそう尋ねてきた若葉の声は、いつもと違って微かに震えていて。

その妙な違和感で気付いた。

きっと今、若葉の傍にお義母様がいるってことに。

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