唇とマーマレード 5

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太輔からのメッセージを読み終えると、今度は若葉からのメッセージ。

『毎日のように、お２人の所在を訊ねる電話がかかってきます』

から始まり、

『部屋の明け渡しの件ですが、お２人とも不在ということもあり、保留にしていただいてます
こちらは問題ないです』

という健気な文章が綴られていた。

きっと本家との板挟みで、若葉の立場も大変なんだと思う。









「まだ俺らの居所には気付いてないみたいだけど」

ここ数日は緩い表情で過ごしていた彼は、久しぶりに小難しい顔になる。

「あの手のこの手で探してくるだろうから、そろそろこの島も出た方がいいのかもね」

「気になる？日本のこと」

「少しは
長男がうまくやってくれてるとは思うけど、会社のことは気になる
でもそれ以外は別に」

「本社のことは？
心配じゃないの？」

「俺にはもう関係ないし」

「でも、まだ籍は残ってるんだよね？
本社に」

「ないよ
退職してきたから」

…それは初耳なんだけど！

何も持ってないとは、そういう意味も含まれてたってこと？









「本音を言えば、スッキリしてる
ずっと縛られてたあの家から、解き放たれたわけだし」

だから教会で会った時、あんなにスッキリした表情をしてたんだね。

でも会社とは縁が切れても、家族の縁が切れるわけじゃないんだよ。

「…引かないで聞いてくれる？」

彼はそう前置きした上で、とてつもなく重い話を始めた。

「昔から俺は、自分以外の人にあまり興味がなくて
正直言えば、自分のことにも興味がなかった」

うん、そうだろうね。

出会った時の彼は、本当にそんな感じだった。

「だから本家と縁が切れても、俺は何も感じないし、何の感情もない
今はやっと掴んだ自由を楽しみたいと思ってるけど、それが上手に出来てるのかはよくわからない」

「できてるよ
ここ数日間の渉さんは、表情が違うもん」

「どんな風に？」

まっすぐ見据えてするその目すら、いつもと違って純粋に見えるから。

大丈夫、ちゃんと自由を満喫してるよ。









「表情が柔らかい
それに、よく笑ってる
いつもは眉間に無駄な力が入ってたけど、今はないし」

「なら、いいけど」

彼は、はにかんだように視線を外すと、またぽつぽつと話し始めた。

「会社が気になるのも、それがAの会社だからで、
Aが関係していなかったら、俺にはどうでもいいことなんだと思う
…要するにそれは、Aのことにしか興味が無いってことなんだけど」

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