唇とマーマレード 5

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花火が始まろうとしているのに、彼はお風呂のお湯張りだのなんだので、じっとしてないから、

「いいから、早く来て」

彼の手を引いて、テラスまで連行した。

建物で少し見えない部分はあるけど、花火が打ちあがった瞬間、私は１人で泣きそうになっていた。

今私は、最愛の人と手を繋いでこの花火を見ているってことが、どれだけ幸せなことなのかを噛み締めながら。

彼も切なげな横顔で空を眺めてるから、きっと感動しているはず。

繋いだ手をぎゅっと握ったら、彼はようやくこちらに視線を向けてくれた。

そして切なそうな目をしたまま、顔を近付けてくるから、私は自然に瞼を閉じる。

…完璧だよ。

だって今、私もキスしたいって思ってた。

そのタイミングを逃さないなんて、彼は確実に恋愛経験値が上昇してる。

なのに私は全く上がってない。

でも、それもいいかって思えるんだ。

だって、彼のスキルが高いなら、もうそれでいいじゃん。









もう今夜は眠りたくない。

ずっと彼と繋がっていたい。

一緒にお風呂に入ったあとは、もうベッドに上がりたくてしかたないのに、

彼は何故かワインをフルボトルで頼んで、スナック類も運ばれてきたから、

私はおとなしく、ソファーに座るしかなくなる。

「飲むの？」

グラスにワインを注いでもらった状態で、まだ往生際の悪い私はそんなことを聞くけど。

「だって、このまま寝てしまうのはもったいないから」

彼はそう言っては、グラスをカチリとをぶつけてくる。

「今日も楽しかった？」

彼の表情を窺いながら、そんな無粋なことを聞いてみた。

「楽しかった」

意外にも彼は、噛み締めるようにそう教えてくれたから、私は満足しながら、

それでも、ずっと彼の表情を窺っていた。

「今、幸せ？」

その質問には彼は少し驚いてたけど、意外と簡単に、

「たぶん、今までの人生の中で一番幸せ」

と、素直にそう教えてくれた。

もうそれだけで、溶けちゃうくらいに幸せ。

「で？このディズニーの後は、Aはどこへ行きたいわけ？」

彼はそう訊ねてくれるけど、そんなこと、今は考えられなくて。

もうこの際、どこでもいいんだ。

なんならずっと、どこかの国の薄暗いホテルの部屋に、一日中籠もりっぱなしでもいい。

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