唇とマーマレード 5

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寝室から出たら、いつの間にか若葉は出勤していて、

「朝食になさいますか？」

と、キッチンから顔を覗かせた。

「まあ、もうお昼に近いですけど」

という余計な一言も、ちゃんと付け加えて。

久しぶりに食べる若葉の朝食が懐かしくて、

だけど私達はそんな若葉との生活も、もう続けられないことに気付く。

「この部屋、引き払うことにしたから」

食後のコーヒーを持ってきてくれた若葉に、意を決してそう告げたのに、

「そうですか」

まるで関心なさそうに、そう答えられてしまった。

「私も会社を辞めるし、もう若葉を雇えなくなっちゃうんだ
若葉にはさんざん迷惑かけたけど…」

「大丈夫です
私、永久就職することになりましたから、心配ご無用です」

「永久就職って？」









「懐妊いたしましたので、今月いっぱいでここを辞めさせていただこうと思ってたところなんです」

「懐妊！？」

私と彼は顔を見合わせる。

「おめでとう
で、誰の所へ永久就職するの？」

「健永さんですけど」

「…え！千賀くん！？」

ちょっと待って。

若葉が千賀くんのことを気に入ってて仲良くしてるのは知ってたけど、２人って付き合ってたっけ？

何も知らなかったんですけど。









「２人が付き合ってたなんて、知らなかった」

「付き合ってません
だけど、２人の子どもが出来てしまったんで、結婚することになりました」

それだけ言うと、若葉はキッチンで後片付けを始めてしまうから、

コーヒーもそこそこにして、私もキッチンへ追いかけていく。

「どういうこと？
付き合ってないのに妊娠とか」

「いつだったか、この部屋で飲み会があった時に、健永さんが酔い潰れたことがありましたよね？」

「…あったね」

「あの夜、そういうことになったんです」

そう説明されても、やっぱり私には理解できない。

千賀くんがワンナイトラブとかしちゃうようなタイプには思えないし、けっこう真面目で一途な子だから。

「その時も彼は責任を取って、付き合おうって言ってくださったんですけど
…断りました」

「何で？」

「責任感からそう言ってるんだろうなっていうのが、見え見えだったからです
なので、付き合うのは本当に私のことを好きになってからで、という断り方をさせていただきました」

「それで？」

「その後も２人で何度かお会いしてたんですけど、健永さんは真面目な方なので指一本触れて来ず
そのうちに私の妊娠が発覚したんです」

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