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その日の夕方、定時に仕事を終わらせてきたらしき彼は、

リビングで若葉とお茶なんかしてる私を見て、安心したような顔をして隣に座ってくる。

その座り方があまりに自然で、向かいにいた若葉は驚いたように目を見開いた。

「体調が悪いって聞いたから、急いで帰ってきたんだけど」

「ちょっと怠かっただけ
今、仕事も忙しくないし」

本当はね、ちょっとサボりたかっただけなんだ。

あるじゃん、そんなこと。

「熱は?」

無遠慮におでこに寄せられた手のひらが、思ってたより暖かくて驚いた。

だって彼の手のひらや指先は、氷のように冷えてそうなイメージだったから。

いつも勝手に触られてるのに、初めてこんな風に感じたかもしれない。









「熱はなさそうだけど
何か食べたいものある?」

「ないよ、特に」

「食欲は?」

「普通」

「ちょっと買い物してくるから、若葉はもう少しいてくれる?」

慌ただしく彼が出て行くのを見送りながら、若葉は意味深な溜息をつく。

「ヤバくないですか?あれは」

「何がよ」

「愛が炸裂しちゃってるじゃないですか」

だからその愛は、単なる家族愛なんだって。

何度言ったらわかってもらえんのかな。

「でもA様が言うように、妻に対する愛というよりは、小さくて弱き者に与える愛のような気がしますね」

「何?その小さくて弱き者って」

「娘とか妹に対する愛、みたいな?」

ほら、だから言ったじゃん、家族愛だって。

「何か一押しというか…、きっかけがあれば、その愛はシフトチェンジしそうなんですけどね」

シフトチェンジ…。

そんな簡単なもんじゃないと思うけど。









その夜、彼は私の好きなエビのたくさん入った雑炊を作ってくれた。

食べてる私を向かいで、幸せそうに眺めている彼を見て、何故だか胸が疼く。

本当はね、自分でも気付いてるんだ。

彼に惹かれていってる自分に。

だからこそ、胸が疼くし苦しい。

この私に向けられてる愛が、家族への愛じゃなかったらいいのに、とか、

不埒なことまで考えてしまうほど。

若葉との賭けとは別に、私は心の中でこっそり別の賭けをしていた。

彼が私の誕生日をスルーしたら、もう彼への気持ちは断ち切ろうって。

本当に好きな人の誕生日なら、知りたいし祝ってあげたいし、

なんなら、その好きな人の誕生日を、自分だけで独り占めしたいって思うはずだから。









…まだ今なら傷は浅い。

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わかめ(プロフ) - Mayさん» 不器用な感じが出ててよかったです(/ω\*)そして、新キャラ加入しました(T△T) (2019年2月10日 0時) (レス) id: ba720923d0 (このIDを非表示/違反報告)
May(プロフ) - 切ないです、、なんて不器用な二人!秘書の人嫌な感じだけど大丈夫ですかね(>_<) (2019年2月8日 7時) (レス) id: 9190cd750e (このIDを非表示/違反報告)
わかめ(プロフ) - かんこさん» 実は電話番号が聞きたかったんですねーwしかも聞くタイミングを完全に失ってたというwwwぼちぼち更新してますのでまた読んでやってくださいm(_ _)m (2019年1月19日 0時) (レス) id: ba720923d0 (このIDを非表示/違反報告)
わかめ(プロフ) - ゆなさん» コミュ障!まさにそんな感じです(/ω\*)渉さんが可愛い人に変わったとか、ありがとうございますm(_ _)mまた読んでくださるとうれしいです♪ (2019年1月19日 0時) (レス) id: ba720923d0 (このIDを非表示/違反報告)
わかめ(プロフ) - 華子さん» はじめまして!コメントありがとうございますm(_ _)m不器用な渉さんが今後成長していけるのか、また読んでくださるとうれしいですm(_ _)m (2019年1月19日 0時) (レス) id: ba720923d0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:わかめ | 作成日時:2018年12月19日 23時

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