唇とマーマレード 2

81 ページ31

「本当はもっと言ってやりたいことがあったけど、Aのことを本当に大事に思ってるみたいだから、ちょっとだけ安心した」









太輔を見送ってから、握り締めてたスマホで明日の天気を検索してみる

…本当だ。

明日は晴れの予報じゃん！

黙っといてやろうかと思ったけど、今日の彼の言動が理解できない私は、

そのまま彼に、スマホの画面を突きつけた。

「天気なんか悪くないじゃん」

食器を片付けてた彼は、画面をチラリと見たくせに、

知らん顔をしてキッチンに入っていく。

私は後を追いかけて、更に追い打ちをかける。

「何で帰ってきたの？
大事な接待なんじゃなかった？」

「…別に
帰りたくなったから、帰っただけ」

「ゴルフ、楽しくなかった？」

「元々そんなに好きじゃないし
それに今回は親父の会社の接待だから、俺はいてもいなくても関係ないから」

ちっともこちらを見もせずに食器を食洗機に並べていく彼の、その背中にゆっくりと抱きついてみた。









それは甘い行為とかではなく、彼の動きを止めるために。

ほら、抱きついた途端に、彼は大人しくなってしまう。

「お義父さんには、ちゃんと断って帰ってきたの？」

「何も言ってない
ゴルフの後、ホテルでみんなで食事して、その後帰ってきたから」

「連絡しなよ」

「…後でね」

こうされてる時の彼は、やたらと素直なんだ。

それはベッドの中でもそう。

暗がりの中、肌を触れ合わせるだけで、彼は考えてることを少しずつ話してくれるから。








「そんなに楽しくなかった？今日」

「楽しくない
Aのことが気になって全然集中できないし」

「それって、家に太輔が来てるから？」

まだ素直になりきれてない彼は、その言葉はスルーしてくる。

だから、更にぴったりと彼の背にほっぺたをくっつけたら、

諦めたのかポツポツと話し始めた。

「やっぱり抵抗があるから
Aが俺以外の男と家にいるとか」

「それで？」

「ホテルの部屋に戻ったら、衝動的に帰りたくなった」

「じゃあ、もう接待行かないとか、出張に私を連れて行くっていうのは？」

「本気
帰りの車の中で、そのことばかり考えてた」

この人は…、なんて不器用な人なんだろう。

だけど、「私のこと好き？」って聞いたら、やっぱり少し悩んで「わからない」とか、残酷なことを言うんだろうな。

「それより、今更だけど、
Aの電話番号教えて
藤ヶ谷くんの前ではああ言ったけど、本音は必要だと思ってるから」

82→←80

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す