唇とマーマレード 2

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やっぱり彼は変だ。

強引にそう言い切っては、

「今日は何時に終わる？」

って、もう決定事項のように訊ねてくる。

「…わかんない。」

「俺は上手くいけば今日は定時に終わるから
終わったら連絡して」

彼は自分の言いたいことだけ言って、そのまま自分の持ち場へ帰って行ってしまった。

ちょっと待ってよ。

何でいつも自分中心なの？

私、承諾してないよね？









彼の言いなりになるのが嫌で、仕事が終わっても私は、わざと連絡しないでいた。

休憩室でぼんやりスマホを眺めながら、ため息ばかり。

そのうち仕事終わりの太輔も休憩室にやって来ては、心配そうな顔をして向かいの席に座ってくる。

「なんか、うまくいってんだって？」

いつもならニヤニヤしながら言ってきそうな言葉なのに、今日の太輔は本当に心配そうな顔で、じっと私を見つめてくるだけ。

「…いってない」

「若葉ちゃんが言うには、とうとう床を共にしたとか」

若葉め！

主人のプライベートを他人にペラペラ話すとか！

「俺が聞き出したんだから、若葉ちゃんを怒らないであげて」

太輔は私の心を読む。

私の考えることをいち早く悟って、いつもこんな風に先手を打ってくるんだ。。









「あれから旦那さん、すげえ優しくなったらしいじゃん」

「一体、太輔はどこまで知ってんの？」

「若葉ちゃんから少し聞いただけ」

少しじゃないでしょ。

けっこう深いとこまで聞いてんじゃん。

「旦那さん、Aに逃げられて火がついちゃった感じ？」

「火がつくって…」

「Aのことを好きになったんじゃないの？」

「なってない」

「することはしたのに？」

「してない！」

「若葉ちゃんは同じベッドで寝てたって言ってたけど？」

「同じベッドで寝たからって、してるとは限らないし
それに、あれはあの人が勝手に入ってきただけだから！」









「いい傾向なんじゃないの？
同じベッドで寝たがるとか
絶対Aのこと好きだろ」

そう言ってくる太輔の目を、じっと睨むように見据えてやる。

「…何？」

「私のことは妹みたいに可愛く思ってんだって」

「は？妹？」

「一緒に寝るのだって、妹と添い寝する感覚なんだと思う」

さすがに太輔も引くほど、私達の関係はなかなか難解なんだ。

それも全て彼のせい。

彼には、人に恋する機能は備わってないんだって。

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