唇とマーマレード 2

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「俺は別にいいけど
昨日はよく眠れたし
ベッドが広いからかな」

「じゃあ、このベッド譲ってあげるよ」

「Aはどこで寝るわけ？」

「…渉さんのベッド？
私は狭いのが好きだから」

正直私は、彼と一緒に寝るなんて生理的に無理なんだ。

昨日は眠かったからつい、一緒に寝ちゃったけど。

「明日は仕事だし、眠れなかったら困るから」

「じゃあこのベッドに、俺一人で寝ろってこと？」

なかなかゴネるよね。

彼って、こんな感じの人じゃなかったはずなのに。









その夜は、やっぱり別々に寝ることにした。

結局、お互い自分の寝室で。

私は無情にも花びらを一気に叩き落として、そのままベッドに潜り込む。

本当に最近、彼の態度が豹変し過ぎて困ってる。

さんざん恋人のように接しておきながら、「でもやっぱり好きじゃない」とか平気で言ってきそうで、

そう言われた時の自分の心情を想像してみただけで震えてくる。

私が逃げれば逃げるほど、グイグイ来られてるような気がする。









翌朝は、新年初出社の日。

いつものように一緒に出社するけど、車内は今までとはガラリと雰囲気が変わっていた。

彼はいつも新聞を読んでいて車内では一切会話もなかったのに、今朝は何かと話しかけてくるし。

…なんだか変な気分の朝。

職場に着くと、社員達からハネムーンについての質問を、一斉に浴びせられる。

「どうだった？ギリシャ」

「やっぱ綺麗でした？」

みたいな。

あー…、すっかり忘れてた。

ハネムーンをボイコットして帰ってきたなんて、太輔以外の人は知らないんだ。

そんな私の隣で、太輔は何か言いたそうに私たちの様子を眺めているだけ。









「A」

研究室のドアをノックする音がして、名前を呼ばれた。

私が気付くよりも先に、みんなの方が気付いてザワザワしてしまう。

「お土産、忘れてたから」

そして、よそ行きの顔をして、

「これ、皆さんでどうぞ」

とかって、みんなに大きな袋を渡してるから、慌てて彼を廊下に呼び寄せた。

「何？あれ」

「ギリシャのお土産」

「いつの間に買ってたの！？」

「あれ、日本で買えるヤツ
通販で買って、会社に送るように手配してたから」

…そういうのは、本当に気が利くよね。

女心はさっぱり気が利かないくせに！









「今夜、どこかで飯食う？」

不意にそう聞かれて、反射的に身構えた。

「…何で？」

「妻とごはんを食べるのに、いちいち理由なんか必要？」

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