唇とマーマレード 2

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彼は本当に掴めない人だ。

だけど朝食後、まるで新妻のように私の世話を焼く彼は、悪くない。

席に着こうとしたら自然に椅子を引いてくれるし、食後のコーヒーまで淹れてくれる。

きっと世話焼きは彼の性分なんだろうと思ってたら、

「Aといると、あれこれしてあげたくなる」

そう、彼の方から言われてしまった。

「あ、それ、わかります
A様、最初は家事は自分でやるからいいって言ってたのに、蓋を開けてみたら何もできないんですよね」

若葉までがそんなことを言ってくる。

できないんじゃないんだよ、やらないだけだし。

そう言い返したいけど、2人していろいろ言われそうだから聞こえてないふりをする。









「今日はどこかに出かける？」

向かいの席に座った彼は、微笑みながらそんなことを聞いてくる。

…どこか？

どこかって、どこ？

「いいですね、デートですか？」

若葉にそう言われて、ようやく気付いた。

これは、デートのお誘いだったわけ？

まさか若葉の前だから、わざとそんなことを言ってるとか？

だけど結局、私は強引に彼に連れ出されてしまう羽目になる。








車に乗ってすぐに、

「これも嫌なこと探しの一環？」

そう苦情を言ってみた。

だけど、

「ただ単に、Aと出かけたいと思っただけ」

とかって、サラリと返してくる。

「それって、本気？」

「本気だけど」

何でそんなすました顔をしてるわけ？

運転席のその横顔が憎らしくて、睨むように見つめ続けてやる。

嫌でしょ？

助手席から恨みがましく見つめられるとか。









なのに彼はそんな私の行動を面白がって、笑ってるだけ。

不思議だよね。

ちょっと前までは、彼は私の前で笑うことなんて皆無だったし、

いつも難しそうな顔をして、話かける隙すら与えてこなかったのに。

何でこんな風に笑ってるんだろう。

「…どこ行くの？」

不貞腐れて答えれば、また彼は喉を鳴らせて笑う。

…何がそんなにおかしいのかな。

私にはちっとも彼の行動が理解できないんだけど。









意外にも彼が連れてきてくれたのは、おしゃれな海沿いの街だった。

「ちょっと歩く？」

私をエスコートするように、道沿いの店を眺めながら歩いていく。

…待って。

これって、デートだよね？

彼はこれがデートだって自覚してるんだろうか。

ただ私を散歩に連れてきた的な感覚じゃないよね？

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