We believe...

7.hk ページ8

...面白くない。


こいつは確かに俺の目の前で笑っているのに、その笑顔は俺に向けられたものでは無い。


今ここに居ない、こいつの想い人。


どうして？


俺とお前はずっと一緒だったじゃないか。


同じ病院で生まれて、幼稚園も小学校もその後もずっと一緒だったじゃないか。


お前は腐れ縁だなんて笑っていたけれど、俺に言わせりゃ運命だ。


そんな俺の気持ちに気付きもせずに他の奴へ走る...


一体全体お前はどんな神経をしているというのだ。


いや、割と無神経な性格であることは重々承知だが。


｢それでね、雄也が言ってきたわけよ。『10を超えたからって隣に追いやるのは可哀想だ』って。もうどうやって教えたらいいかわからんよ。｣


｢薮に勉強で手を焼かせるなんて、雄也はある意味天才かもしれねぇな。｣


｢光も学生時代、相当だったからな。高校生にまでなって九九が言えないことが判明した時は、本気で病院に連れて行く覚悟を持ったぞ。｣


｢さすがに繰り上がりの足し算はできたっつーの。｣


｢繰り上がりなぁ...。雄也の魅力は優しいところなんだよなぁ...。でも、だからって数字は数字だし...｣


｢でもまぁ、そこに優しさは要らねぇからなぁ...。｣


...実に厄介だ。


俺は雄也に好感を持っている。


優しい性格然り、丁寧な仕事ぶり然り。


非の打ち所が無いとは言わないが、それはそれで愛嬌のある可愛らしい奴だ。


俺としては弟ができたみたいで毎日がそれなりに楽しかったりもする。


雄也がこの店に来てから客も多少増えたし、俺や薮も雄也の良き手本になろうと奮闘した結果仕事の質が向上の傾向にある。


薮やY's、勿論俺にとっても雄也は必要であり有益な存在だ。


たった一つ、薮の想い人であることを除けば。


手っ取り早く薮を俺のものにしてしまいたい気持ちもあるが、この二十数年で培ってきた信頼を失う可能性を考慮するとどうしても踏み留まってしまう。


薮はああ見えて頑固な性格だから、雄也に酷いフラれ方でもされない限り諦める可能性はかなり低い。


しかし、あろう事か雄也も薮のことを想っているではないか。


直接聞いたわけでは無いが、そんなことは見ていればわかる。


...酷いな、まったく。


俺のこの境遇も、俺自身も。


｢雄也...ぶっちゃけどう思っているのかな、俺のこと。｣


｢さぁね。お節介な店長、とか？｣


｢お節介！？まじか...。でもなんか構っちゃうんだよな、雄也には。｣


｢嫌われても知らね。｣

8.yt→←6.tk

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す