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5月24日。
小粋な彼ならきっとこの日を、5月24日を
Xデーとでも呼ぶだろう。
朝からいつも以上に、せわしなく人の流れを凝視して来た。
どこかに彼がいないだろうか、
いや、彼、___けんちゃんと呼ぶにはまだ早そうなので
人間の、山下健二郎とでも呼ぶべきかな。
何にせよ頭の中は「山下健二郎」のことでいっぱいなわけで
…けんちゃんがいなくなった後、
故障により離脱、ということでけんちゃんの席は無くなった。
テキパキと卒なく仕事をこなしていた彼が抜けたのは
会社にとってはかなりの痛手で、
いつもより多い書類を手に持ち今日も営業へと出かけた。
けんちゃんならこの場面をどうやって乗り切るんだろうか。
ミスした時にはけんちゃんがいつもご飯に誘ってくれたな。
今日までずっとけんちゃんのことを考えてた。
けんちゃんを思い出さない日は無いくらいに。
もしもあの手紙が本当ならば、今日。
誕生日の「山下健二郎」さんは____
うまく仕事へと切り替えられないまま歩いていると
突然、持っていたカバンが大きく開いてしまった
その拍子に資料が散らばった。
またドジしてしまった。
自責の念に駆られそうになっていると
どこからともなく差し伸べられた手。
「すいませんっ、ありがとうございます!…っあ、」
「いえいえ、お怪我はないですか?」
少し関西の訛りが、けんちゃんを思い出させた。
「…っ、いや、無いです」
「なんか、…どこかで会ったことありません?」
「へ…?」
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後から聞いた。
あの日、彼が私に尋ねた
「どこかで会ったことありません?」
その言葉は全くの嘘で、初対面だったこと。
何故かこのまま別れるといけない気がした、と。
俺の一目惚れやんなぁ、やっぱり。
彼はそういって笑った。
私も、くすっと笑った。
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アンドロイドのけんちゃん、
あなたは今どうしていますか?
人間のけんちゃんは
私の隣で毎日笑ってくれています。
あなたがアンドロイドであろうと、人間であろうと
確かに彼を愛しています。
Fin.
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作者名:葵 | 作成日時:2017年3月6日 20時