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「90も過ぎたじいさんが、人生を終えようとしてる」
過去に送られたアンドロイドが人間活動を停止するときは
作った本体、本人が亡くなるとき。
彼はそう言った。
「けんちゃん、…うち来て?」
きっと彼も、私も、気付いていた
今日が最後の夜になることに。
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「けんちゃん、いなくなったりしないでね
私を、ひとりにしないでね」
涙をこらえて絞り出した声は心なしか震えていた
「Aのこと、いちばん愛してんで」
世界で、宇宙でいちばん、俺がお前のこと好きや
けんちゃんはそう言ってきつく、きつく私を抱きしめた
夜もすっかり更けきってもなお、私は目が覚めていた
今寝てしまったら、彼がいなくなってしまいそうで。
朝起きて、このベッドが抜け殻になっていたら
そう考えるだけで寝られなかった
「けんちゃん、いなくならない?」
「ならへんよ、ここにおる」
「私けんちゃんが寝るまで見てる」
「ふふっ、好きにせえ」
優しい声で優しい手つきで私の髪の毛をすっと撫でる
「おやすみ、けんちゃん」
…大好きだよ
普段は恥ずかしくて言えないことも
今日はすんなりと言える
けんちゃんが眠ったのを確認して、
どこにも行かないでと、手を握って眠りについた
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作者名:葵 | 作成日時:2017年3月6日 20時