君は僕の春風。 (ページ3)

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「………」

「………」

どうしよう、気まずい。

行きは一人だった通学路を、二人並んで歩いている。今日出会ったばかりのクラスメイトの隣に並んでいることに慣れなくて、そわそわしてしまう。変な人だと思われてないかな…

こーちくん、さっきから何も話さないし。

不安になりチラ、と横目で隣をみるとこーちくんが水分の多い黒目がちな瞳をキラキラさせながらこちらを見ていた。

「HE、な、なに？」

「んーん、なんでもない！」

鼻歌でも歌い出しそうな程上機嫌なこーちくん。

気まずいと思っていたのは俺だけだったようで、緊張で強ばった肩の力がスッと抜けていく。

「そう言えば、俺の事こーちって呼んでよ！君付けじゃちょっと距離感じるし、ね？」

「うん、わかった。…こーち」

「そうそう！俺もジェシーって呼んじゃお♪」

こーちはとても聞き上手だった。

時々俺がしどろもどろになると、柔らかな眼差しで催促をせず待っててくれる。そしてどの話にも興味深そうにうん、うんとこまめに相槌を打ってくれるのが嬉しくて気付いた時には自分の話ばかりしてしまっていた。

「ご、ごめん。自分の話ばっかり…」

「ううん、俺が聞きたかったから聞いてたの。気にしないで？」

ふんわりと優しく微笑むこーちが俺には眩しくて、無意識に目を細めてしまう。

話しながら歩くこと十数分程。気がついたら俺の自宅の近くまで来ていた。どんだけ夢中で喋ってたんだ俺。こーち、聞き上手にも程があるだろ。

「俺の家、ここなんだ」

「そっか！じゃ、また明日ね」

自宅に入るまでこーちはニコニコと笑顔で手を振っていてくれていた。軽く手を振りかえしてから玄関の扉を開ける。

靴を脱いで階段を上がり、2階の自室に荷物を置きに行く。ふと窓の外を見て、真っ先に目に入ったのはついさっき一緒に歩いていた彼の後ろ姿。思わず目を見張った。

「こーち…？」

こーちの家、この先じゃなかったのか。言い出すタイミングは沢山あったはずなのに、どうして何も言わずに着いてきてくれたんだろう。

俺は荷物を持ったまま窓ガラスに手を添え、その後ろ姿が見えなくなるまで立ち尽くしていた。