２９話目 ページ29
「そろそろ寝ねぇとヤベェな...って、寝とんのか！？」
書類作りに没頭し、ふと時計を見ると２時前。
隣に座るAはテーブルに突っ伏して眠り込んでいた。
「ったく...風邪ひくだろが。」
呆れ顔でAを抱え上げ、部屋の電気を消してベッドルームに連れて行く。
そっとベッドに横たわらせてため息をついた。
「こんなんで春から社会人かよ。」
頬を優しく撫で、俺も隣に寝転びながら小さな体を抱き寄せる。
自分がこの時期どんなだったか...思い返してみようとするが...思い出せない。
ふっと鼻で笑って、眠りについた。
「勝己兄ちゃん、朝だよ。起きて〜！」
ポンポンと肩を叩かれ、俺は目を覚ます。
「もう...朝かよ？」
大欠伸をしながらAをベッドに引きずり込んだ。
「起きないと〜！仕事遅れちゃうよ〜？」
「わーっとるわ。」
一緒に住んだらこんな感じなのか...と、幸せがこみ上げてくる。
「んん、起きてきてね？」
俺の腕から抜け出し、パタパタとキッチンへ走って行った。
(いい匂い...すんな。)
フワッと和風だしの良い匂いが流れてくる。
キッチンへ行って「おはよう。」と声をかけ、シャワーを浴びた。
「勝己兄ちゃん、お弁当作ったから持って行って！」
「弁当まで作ったんか？何時に起きたんだよ？」
「お弁当は初めて作ったから自信ないんだけど。」
俺の質問はスルーして、テーブルに弁当箱を置く。
そして朝食を並べ始め、楽しそうに鼻歌を歌い出した。
「...その歌...。」
「勝己兄ちゃんが出てるＣＭの歌！」
最近流れ始めた炭酸飲料のＣＭ。
「もう覚えたんかよ。」
「うん！勝己兄ちゃんカッコ良くて何度も見たから〜！」
プハッと飲み干す真似をし、バチンとウインクをしてくる。まんまＣＭの真似...。
「やめろ、小っ恥ずかしい。」
俺は目の前の卵焼きを口に運び、首を横に振った。
昼になり、弁当箱をテーブルに出すと...朝からこってり俺に絞られた切島が珍しそうに覗き込んでくる。
「愛妻...弁当？」
「見んな、向こう行けや！」
「向こうって...俺も飯食うんだよ！」
現場の狭い控え室では隠し様がなく、俺は背を向けて弁当箱を開けた。
「はぁっ！？？？」
「どした、爆心地！？」
「な、何でもねぇわ！」
弁当箱の中身は...キャラ弁ってヤツで...。
飯の上に海苔で切り取られた俺の籠手や、ヒーロスーツが乗っていて、人参や青菜で色味が再現されている。
俺は見られない様に一気に口に運んだ。
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作者名：梅シロップ | 作成日時：2017年9月25日 3時
