しつけぇわ！７ ページ21
「えっと、何てお呼びしたら良いですか？」
「...別に敬語はいらねぇ。普通に話せや。聞き慣れねぇから気持ち悪ぃわ。」
「あ、はい。」
「んで、俺の事は勝己でも何でも好きな様に呼べ。」
リビングのソファに座り、借りてきた猫みたいに大人しいAは小さく頷いた。
「勝己さん...はヒーローしてはるって警察の方が言うてました。」
「ま...あ、これでもそこそこ人気のあるヒーローでよ。つうか、俺の事全く覚えてねぇんか？」
「...ごめんなさい。」
口元に手を持っていき、しょんぼりと項垂れる姿。
こいつのこんな姿...見た事ねぇわ。
俺の前ではいっつも笑ってた...かんな。
「勝己...さん？」
ふと気付くと腕の中にAを抱きしめていた。
「わ、悪ぃ。Aの悲しそうな面見てたら勝手に...よ。」
「暖かくて...落ち着くような気がします。」
顔を上げ、いつもの満面の笑みで頬を染める。
俺は黙ったままAの頭を撫で、己の不甲斐なさに唇を噛み締めた。
「すんません、ちょっと一人に出来る状況じゃないんすよ...。」
朝方、職場の上司に電話をして今日1日だけ無理矢理に休ませて欲しいと頼み込んだ。
Aの仕事先への連絡や自宅から荷物を持ってきたりとする事は山積みで、それにあんな悲しい顔をするAを1人には出来ない。
「うっす、それで頼んます。」
何とか休みが取れたものの...来週の休みは返上になってしまった。
久々に山に行くはずの予定が潰れ、カレンダーの予定をペンで塗り潰す。
「おはよう...ございます。」
「おう、良く寝れたか？」
眠そうな目をしてAは頷き、Tシャツから出ている肩を気持ち悪そうに直した。
パジャマ代わりにと渡した俺のシャツとハーフパンツはダボダボで、小柄で細身の体型には大き過ぎたらしい。
「勝己さん、お仕事は何時から「休んだ。とりあえずAの職場に事情話に行くのと着替え取りに行かねぇとな。」」
一瞬心配そうに表情を曇らせたがすぐにニッコリと微笑んだ。
「申し訳ないなと思うのに...何だか嬉しくて。」
「そうかよ。とりあえず朝飯にすっか。」
素っ気ない態度でキッチンに入り、さっきの笑顔を思い出す。
「...早よ付き合えって言ってこいや。」
あれだけ鬱陶しかったくせに、こんな状況になると勝手なもので寂しく感じてしまう。
Aが好きな卵だけのシンプルなオムレツを焼きながらクシャッと顔を歪ませた。
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作者名：梅シロップ | 作成日時：2018年10月28日 0時
