白衣１３ ページ37
「お疲れ様でした、轟さん。」
「いや俺は...何も。」
車に乗り込み、Aさんはいつもの笑顔で頭を下げてくる。
「はー、無事に産まれて良かったぁぁぁ！！」
ガタッと車のシートを倒し、大きく伸びをして叫んだ。
俺もAさんを真似してシートを倒し、思い切り伸びをする。
「今夜はここに泊まりです。明日の朝お母さんと赤ちゃんの様子を見て、診療所に戻ります。」
「ここで寝るのか？」
「診療所が遠いので、戻ると非効率なんですよ。幸い向こうに患者さんが少ないのでここで...寝ま...す。」
後部座席から毛布を取り、俺に手渡して欠伸をした。
「ごめんなさい、もう...限界...です。」
呟くような声でそう話し、Aさんはあっという間に夢の中へ...。
(寝顔...幼ぇ。)
さっきまでのAさんは真剣な表情で厳しそうな雰囲気をも醸し出していたが、眠ってしまった顔は幼く、とても同い年には見えない。
暫く寝顔を見つめていたが、俺も長時間の移動疲れに着いて速攻の仕事疲れも相まって、すぐに眠りに落ちていった。
翌日からは激務の連続で、毎日がまさしく戦場の日々。
近くで銃撃の音が聞こえる中での救助活動。
遠くに聞こえるミサイルが爆発する音。
１度診療所の傍にミサイルが落ち、皆で肝を冷やした事もあった。
診療所に患者が溢れた時は眠る暇もなく介助をし、出来る限りの手当をして回る。
一時間前に生きていた人が亡くなっていたり、錯乱して暴れたりする人も居て目が離せない。
こっちで赤ん坊が産まれ、あっちでは死んでいく。
日本に居た時にはここまで目まぐるしく命の変化を目にする事は無かった。
その中でもAさんはよく笑い、嫌そうな顔一つもせずに働き...皆に慕われている。
日々の忙しさに忙殺され、俺の気持ちを整理する暇は微塵たりとも有り得なかった。
「轟さん、来週まで...でしたよね？」
「Aさんは...「明後日、日本に戻ります。もう少し居たかったんですが、妹が戻って来いってうるさくて。」」
日暮れの夕日に照らされ、風で乱れた髪をかきあげてAさんは微笑む。
こっちに来て少し痩せてしまったが、横顔は前以上に綺麗で俺は見惚れてしまった。
「帰ったら何かするのか？」
「暫くゆっくりして...また看護師として働きたいなと思います。轟さんは？」
「以前と俺も変わらねぇ。」
「元の日常に戻るだけ...ですね。」
再会の約束も何もせず別々に日本に帰国し...それから１年が過ぎた。
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作者名：梅シロップ | 作成日時：2018年2月3日 5時
