白衣１２ ページ36
「何か...あったのか？」
「三人目なのに時間が掛かりすぎてるんです。逆子か...横位、赤ちゃんが横になってしまっているのかもしれなくて。」
「俺に何か出来ることは！」
「待つ事...だけです。私も傍に居て様子を診る事しか出来ません。」
痛みで唸り声をあげる妊婦の腰を擦り、額から滴り落ちる汗を拭いながら話した。
(暑い...のか？それなら...。)
妊婦の傍に腰を下ろし、俺は冷気を出して周囲を冷やし始める。
一瞬妊婦の顔が引きつって見えたが、Aさんが何かを話すと気持ち良さそうな表情を浮かべた。
「ありがとうございます、轟さん。」
「いや、俺には何にも出来ねぇ。これ位...しか。」
夜になり、電気の乏しい村ではロウソクの灯りだけが頼りで部屋は薄暗くて見えにくい。
「轟さん、火の個性で明るくする事は可能ですか？」
「暑くなっちまうが...。」
「もうすぐ気温は下がり始めます。それよりも見えにくい方が困るので。」
「わかった。火傷しねぇ様にな。」
辺りを見回し、燃えやすい物が無いか確認して小さな火を起こした。
「そこのコップを貸してくれ。」
妊婦が飲むコップを指差し、その中に小さな氷の欠片を数個作って落とす。
そして妊婦に手渡すと美味そうに飲んで微笑んでくれた。
「全開！頭が...降りてきてます！」
診察をしたAさんは叫び、妊婦とその夫に話しかける。
夫は妊婦の背中に回り込み、包み込むように抱き締めた。
次の瞬間...妊婦は叫び声をあげながら痛みに耐え、命を生み出そうと全力でイキミ出し...何度も何度もそれは繰り返される。
「頑...張れ。頑張れ！」
日本語で応援しても通じないとわかっていても...思わず口からその言葉が飛び出していた。
「産まれます！！轟さん、こっちを重点的に照らして下さい！！」
「わかっ「オギャー！オン...ギャア！！」」
Aさんの手には小さな赤ん坊が乗っていて、声の限りに大きな産声をあげる。
「産ま...れた...すげぇ...。」
手際良く体を拭われ、赤ん坊は母親の胸に抱かれた。
(母さんも...こうやって俺を...。)
そう思うと感動で...胸が詰まってくる。
初めて見る出産は正直怖かったが、命の誕生はとても素晴らしくて...。
「感傷的になってる暇はありません！」
「...っ、悪ぃ！」
Aさんはテキパキと後処置というのを行い、母親の胸をめくって母乳が出ているかと確認する。
俺はAさんの支持で湯を沸かしたり、後片付けを無我夢中で手伝った。
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作者名：梅シロップ | 作成日時：2018年2月3日 5時
