白衣７ ページ31
(どうすれば...良いんだ。Aさんが行っちまう。)
その話を聞いて以来、寝ても覚めても気になるのはその事ばかり。
Aさんに行くなとも行けとも言う権利は俺には無く...どうすれば良いのか頭を悩ませ続けていた。
「顔色悪いわね、焦凍。何かあったの？」
「いや、何にもねぇ。」
「最近は医道さんも口数が少なくて...。てっきり２人に何かあったのかと心配してたのよ。」
出発まで１ヶ月を切り、準備の為かAさんは昼勤になっていて、なかなか顔を合わせられずにいる。
「医道さん...ソマリアに行くらしいんだ。」
「...ソマリア？それはお仕事で？」
「いや、ボランティアだと思う。」
「そう...なの。」
母さんは一瞬言葉を失い、ふっと悲しそうな表情になった。
「焦凍は...もう気持ちを伝えたのかしら？」
「...気持ち？」
「えぇ。人はまた、と思っていても会えなかったり、気付けばもうこの世に居ない時もあるわ。...母さんね、お父さんと結婚する前に好きな人が...居たのよ。」
窓の外を眺めて、母さんは話し続ける。
「今度会えたら、好きだと言おう。そう思ってまた会える日を楽しみにしてたの。でも、彼は呆気なく...交通事故でこの世を去ってしまった。...焦凍には、こんな思いさせたく無いな。」
生きて帰る保証の無い場所へ行くAさん。
好きな人との悲しい別れを経験した母さん。
そして俺は...現場で突然の死を迎えてしまった人達をたくさん、たくさん見送って来た。
「...母さん...。」
「あなたの顔色が悪い原因はAさんでしょう？悩んでいる間に彼女は海外へ行ってしまう。最悪の事態が起きてしまってから...後悔しても遅いのよ、焦凍。」
「...っ！」
俺は返事もせずに母さんの病室を飛び出し、急いで自分の車に乗り込む。
そこでAさんの家を知らない事を思い出したが、前に別れた場所だけを頼りに車を走らせた。
「確か...ここら辺だったな。で、ここを曲がった...。」
Aさんが駆けて行った道を曲がると、少し奥まった所に診療所っぽい建物がポツンと１軒立っていて、そこには『医道医院』と看板が掲げられている。
「ここで間違いねぇ...はずだ。」
家を見つけて安堵のため息をついたが、ここから先はどうするか、全く考えていない...。
(いきなり訪ねて行ったら...怪しくねぇか？)
ハンドルに頭をもたげ、見切り発車し過ぎた自分を呆れ返りながら、ガックリと肩を落とす...しかなかった。
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作者名：梅シロップ | 作成日時：2018年2月3日 5時
